日本画とは、鉱物や貝殻を砕いて作った岩絵具を、膠(にかわ)と呼ばれる動物のコラーゲンでできた糊に溶かして絹や和紙などに描かれる絵画のこと。透明水彩や油絵具に較べても画材の扱いが難しく、創造性だけでなく、年季と職人的な勘を要求されるジャンルです。
そして、多くの美術関係者がまことしやかにささやくところによれば「なぜか日本画家には猫好きが多い!」のだそう。日本画における母子像の第一人者であり、長年第一線で活躍してきた安田育代さんもそのひとり。必ず1点は猫が出てくるので、猫好きとしても個展が楽しみな作家です。
息を詰めて引いたような表現力豊かな輪郭線と、岩絵具の美しさと繊細さを生かした色彩は安田さんの特徴でもあり、猫がまたすばらしいのです。特にキジトラ猫を描くことが多く、全体の柔らかいフォルムや表情だけでなく、毛のグラデーションが絶妙。絵を通じて生き物としての猫の美しさを堪能できます。
今回の個展には、1枚だけですが印象的な猫の登場する大きな絵が出品されていました。その名も「愛猫」です。
「この間、12歳で亡くなったユキちゃんという猫なの。男の子だったんだけど、うちの娘に抱かれてこっちを見た時の『お姉ちゃんはボクが守る!』という表情が印象的で……」
と、安田さんはいわくを教えてくれました。イカ耳気味なのも、これまでのキジ猫よりも柔らかい感じがするのも納得です。甘えん坊で優しくてお嬢さんのことが大好きな、ユキちゃんの猫となりがしみじみ伝わってくるようでした。
「安田育代 日本画展 いのち」
日本橋三越本店 美術特選画廊(東京・日本橋)2024年1月31日~2月5日