笑顔がチャーミングな亜希子さん。3匹の愛猫は試作品のテストも引き受けている
首輪に慣れていない子でも負担なく着けられる、かわいいデザインが魅力のオリジナル猫首輪ブランド「Nonbillie」(ノンビリー)。猫への思いやりあふれる店長の青木亜希子さんは、実はもともと猫が苦手だったという。だが、ある日手違いで保護した白黒ハチワレ猫ノンタン(現在3歳♂)との出会いが全てを変えた。
写真・芳澤ルミ子
Text by Sakurada Misato
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犬好き青木家に猫がやってきた!
亜希子さんは小さい頃から途切れることなく犬と暮らし、現在も2匹の犬と同居しているが、猫は苦手だったという。犬と違って猫は懐かない、猫も自分とは違うタイプの落ち着いた人を好むのだろうといった先入観があった。
そんな思い込みをがらりと変える出会いがあったのは、2022年10月のこと。近くの駐車場に、見慣れぬグレーのハチワレ子猫が現れた。やせ細っていたのでなんとかしたいとチャンスを伺っていたある日、犬の散歩で外出中の亜希子さんに夫からLINEが。
「今帰ってきたら(家の)シャッターの前に猫いたよ」。
「ハチワレ模様だったから『あの子だ!』と思い込んじゃって。慌てて洗濯ネットで捕まえました」

綿100%の生地を使い、約4gの軽さと柔らかさを両立しつつ、万一の際は外れるようにセーフティーバックルを採用。
猫を引き立たせるかわいいデザインは、見ているだけで心躍る
興奮冷めやらぬまま、ちょうど帰宅した末娘と一緒に動物病院へ。すると後部座席の末娘が「あの子じゃない子を捕まえたんだね。大きさも毛の色も全然違う」とポツリ。
見れば、ハチワレ模様はグレーではなく白黒。とんだ人違いならぬ猫違いだが、未去勢の大人猫を戻すわけにもいかない。この日は健康診断をし帰宅。去勢手術の予約は2ヶ月先まで埋まっていたので、それまで預かることになった。
しかし、猫は外に戻りたいのか24時間鳴き続ける。
その姿を見て夫は「野良猫として過ごしてきたんだから、人間の都合で家に閉じ込めたらかわいそう」と手術後のリリースを勧めた。亜希子さんは迷っていたが、世話するうちに信頼関係が芽生え、お迎えしたいと思うように。
間をとって「いったん外に出して、自分から家に戻ってきたら迎えよう」ということになった。2時間後、玄関で再び相見(あいまみ)えたときの喜びといったらない。こうして青木家に仲間入りしたのがノンタンだった。

「このボクでも着けられるんだよ」。首輪嫌いのノンタンも今ではすっかり看板猫。
ちなみに最初に見かけたグレーのハチワレ子猫は現在、別の場所で地域猫として世話されているようだ
続く出会い
その後も猫との出会いは続く。
2023年8月にビリー(現在6歳♂)が、2024年6月にどんぐり(現在10ヶ月♂)が仲間入りした。
ビリーは突然やってきて居着いた黒猫だった。一番かわいがっていた三女の「家に入れてあげてほしい」という一言がきっかけで
お迎えすることに。当時は反抗期真っ只中でろくすっぽ口をきかない三女だったが、ことビリーに関しては会話が弾む。
夫も反対しなかった。
どんぐりは保護猫活動をしているママ友が劣悪な飼育環境のブリーダーから救い出した子猫だ。このころには保護猫活動を始め、預かりボランティアも引き受けていた亜希子さん。
そのママ友からどんぐりの里親募集の連絡を受けたのは、ちょうど預かっていた子猫たちが全員巣立ち、ケージが空いたタイミングだった。いざお迎えしてみると彼は何も気にしない性格で、先住犬2匹のこともお構いなし。
やがて犬と猫の間にあった緊張関係も和らいでいった。三女と家族をつなぎ止めたビリー、犬と猫をつないだどんぐり。家族もまた、2匹を必要としていたのかもしれない。

外猫時代はかなりの威張りんぼうで地域猫たちを蹴散らしていたビリー。
今の温厚な姿からは想像もできない

昨年やってきたどんぐりはそのおおらかな性格で、
先住犬の生活スペースにぐいぐい進入。犬と猫の壁をどんどん崩していった
「猫の首輪屋さんやってみない?」と誘われて
猫生活にもすっかり馴染んだ亜希子さん。猫の首輪屋を始めたきっかけは何だったのだろうか。
「まず、ノンタンが本当に首輪嫌いで。ビリーは大丈夫だけど、革製の首輪でハゲができてしまった。猫にやさしい首輪が欲しかったんです。それからもうひとつ、迷子猫の多さに驚いたこともあります。
首輪を着けていれば飼い猫の目印にもなるし、外で見かけても分かりやすいから、首輪は大事だと思っていました」
この悩みを聞いていたパタンナーの同僚が、一緒に猫の首輪屋を始めることを提案してきた。
挑戦への迷いもあったが、大好きな猫に携われる仕事であり、自分が今やりたいことと重なる。なにより、売り上げを保護猫活動に充てられればもっと多くの猫が助かるかもしれない。
「本気で頑張ろうと思って」。10年勤めた仕事を辞め、開業の準備に取りかかった。

長女とともに。家族への感謝をたえず忘れない亜希子さん
お店の名前はノンタンとビリーからとって「Nonbillie」。少しでも多くの家猫たちが、のんびり穏やかに暮らせるようにという願いも込めている。
そんな猫愛あふれるお店が作る首輪は、リボンやネクタイ、お花にスタイとバリエーションが多い。実用性に加えて、飼い主から見ても楽しい見た目になるよう考えている。生地は亜希子さんセレクトだ。
「ノンタンが首輪嫌いだったからこそ生まれた商品です」
亜希子さんは目を細めてノンタンを見つめる。ビリーの首輪ハゲも落ち着いて一安心だ。同じように首輪を諦めていた飼い主からもたくさんの反響があり、売上の一部を地元の保護猫団体に寄付することができた。
「支援したい保護猫団体やボランティアさんが全国にいらっしゃるので、寄付が実現できるようにもっと頑張りたいです!」
亜希子さんの目標は常に更新され続ける。

「家猫になったからには、お外の生活を忘れるくらい幸せになってほしい」。
壁一面に設置されたキャットステップやタワーは3匹の憩いの場
猫が幸せを運んできてくれた
取材を通して亜希子さんが繰り返し口にしていたのは、猫たちと周囲の人々への感謝だった。
「ノンタンが来てくれたから自分の考え方が変わって今があるんです。そして家族。最初は反対していたのに今は一緒にかわいがってくれて、感謝しています。
保護猫活動をしている友人、首輪屋に誘ってくれた友人もそう。私は本当に何もしていなくて、ただラッキーだっただけですよ。猫が幸せを運んできてくれたんです」

猫が苦手だった先住犬スーピー。どんぐりのおかげで、
今まで一歩も入れなかった猫部屋に入れるようになった(写真提供・青木亜希子)
猫嫌いだった亜希子さんの変わりように興味を持ち、友人や知人、兄夫婦も保護猫を飼うようになった。
また、インスタグラムでも「投稿を見て保護猫をお迎えしました」というコメントをもらい、亜希子さんの励みになっている。保護猫の輪がどんどん広がって、幸せになってくれる子が少しでも増えてほしい。
ふとした勘違いから始まった猫愛物語は、まだまだ続いていく。