「親しまれる駐在所」にひと役買う巡査部長補佐あんこ

警察章とおそろいの色の首輪をしたあんこ

相模湖のすぐ近く、周囲を山々に囲まれた神奈川県相模原市緑区千木良(ちぎら)地区。

そんなのどかな町の一角にある駐在所には、住民たちに愛される黒猫あんこ(♀)がいます。その働きぶりを覗いてみましょう。

窓辺にあんこを見つけた子どもが手を振ることも

定位置でのんびり

午後の方があんこが出勤している確率が高いです」と、千木良駐在所勤務の入江宏巡査部長のおすすめで、晴れた午後、駐在所を訪れると……。

いた!

国道に面した日当たりのいい窓辺の角に座り、黒猫さんが外を眺めている。ひなたぼっこをしながらも、わが町に異変がないか、さりげなく目を配っている風情は、かなりの働き者と見た。

春の日差しを受けて輝く瞳は、賢そうなシャインマスカット色である。あんこは、推定6歳。入江さんが仕事で事務所内に入ると、補佐のため、奥の自宅から出勤してくるという。

あんこの肩書は「巡査部長補あんこの肩書は「巡査部長補上司であり、飼い主でもある入江さんに、元野良だったあんこ採用の経緯を聞いた。

「あんこちゃんは町のアイドル」と、ご近所の青木さん

 

事故で脚を大けが

入江さんがこの地に赴任したのは、13年前。奥さんの華江さんと結婚した直後である。

「やってきた当初は飼い主のいない猫の多い地区でした。年間に何匹も車にひかれていましてね、早朝見回りのときにそっと回収し、合同供養もしてくれる業者に引き取りに来てもらったものです。ボランティアの方々が不妊手術をがんばってくださったおかげで、ノラは減っていきました」

あんこは、2017年の12月頃、見かけるようになった、一匹暮らしの若い猫だった。捨て猫と思われる。入江さんが不妊手術をしてやろうと、獣医さんに予約を入れた3日前から姿を見せなくなった。

後ろ脚をブランブランさせて歩いているのを遠くから見かけたものの、呼んでも逃げられてしまう。予約当日の朝、「敷地内侵入で確保」して、動物病院に運び込んだ。車にひかれたらしく、骨折した左後ろ脚と怪我が酷かったシッポの手術を受けた。

先住の三毛猫パールは、日本美人さん

 

退院後に情が移る

退院後はケージの中での安静がひと月必要だった。駐在所内で療養させているうち、外退院後はケージの中での安静が、ひと月必要だった。駐在所内で療養させているうち、外に戻すのはしのびなくなった。猫好きの華江さんと共に情が移ってしまったこともある。

そこで、あんこは、先住の三毛猫パール(13歳♀)と共に駐在所の飼い猫となったのだが、怖い思いをしたためか、警戒心をなかなか解かない。2年近くも入江さんは威嚇され続けたという。

電話には出られないけど電話番

そのうち、事務所近くに置いてある自宅の椅子の上が定位置となり、そこに座っているときはお触りOKとなった。やがて、事務机の上も定位置となる。

花台が今はお立ち台に

現在のお気に入りは、窓辺の角にある、花を飾るための三角台である。

もとは、パールのお気に入りの場所だったが、パールは人見知りなところがあり、駐在所勤務はあんこに交代といったところだ。勤務を任せられたあんこは、いまではもう、入江さんばかりか、誰が触ってもOK、ゴロゴロまで聞かせてしまう、親しまれる巡査部長補佐となっている。

登山者向けの書類や注意喚起のチラシは、登山口に近い駐在所ならでは

 

いい仕事してます

あんこは、町の人たちや登山などで訪れる人たちが、身近な存在として駐在所に親しみを感じてくれるのに大きな役割を果たしている。

千木良駐在所管内はお年寄りが多い地区で、ここ数年は大きな事件もなく、交通事故や特殊詐欺、独居者の消息不明、または登山者が戻ってこないなどの対応がほとんどである。なにか不審を感じたら、すぐに相談してくれることが、犯罪防止にもつながる。

あんこがいることで、子どもたちや家族連れ、お年寄りまでが親しみやすく相談しやすい駐在所になった。あんこの姿を見るのが楽しみで、毎日そばを通らずにはいられないご近所さんもいる。

「駐在所脇の道を通って山に登る登山者も多いのですが、あんこを見つけると写真を撮ったり、『触ってもいいですか』と入ってきたりする人も多いですね。帰りにも寄ってくれると、無事下山の確認ともなるので、大歓迎です。拾得物の取り扱いの書類作成に時間がかかってしまうときも、あんこが接待してくれるので大助かりです」

机の上で転がったら「撫でて」の合図

 

ファンは広がる

あんこの働きは、事務所内だけにとどまらない。千木良駐在所管内の受け持ちは、およそ800戸。そのうち1割が空き家だ。一軒一軒への巡回連絡では、ときに猫の話で盛り上がる。猫の相談事も受けることがある。捨て猫に困っていた住民の相談を受け、譲渡先を仲介したことも何回かある。

毎日ボスに撫でてもらうから毛もツヤツヤ

入江さんは、以前は会社員だったが、退職後に採用試験を受けて警官となった。現場で働く親しまれる警官として、日々心を砕いている。外猫から中途採用のあんこも、上司をお手本に全国でも珍しい、みんなに愛される駐在所勤務猫を目指しているようだ。

そんなあんこの働きぶりが評判を呼び、新聞記事になった昨年以来、あんこファンは遠方の町からもやってくる。毎月必ず会いに来てくれる母娘もいる。あんことパールが付けている、小さな鈴と名札のついた首輪は、その母娘からのプレゼントだ。あんこにとっては、入江さんの警察官バッジにも負けない、誇るべき働きものの勲章である。

文・佐竹茉莉子 写真・内山光陽

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