福島県西部に広がる米所・会津。その歴史は古事記の時代に遡り、崇神天皇が北陸道に派遣した将軍・大毘古命(おおひこのみこと)と、東海道に派遣したその息子・建沼河別命(たけぬなかわわけのみこと)がこの地で出会ったのが地名の起こりと伝わる。その際、父子が国生みの神である伊弉諾尊(いざなぎのみこと)と伊弉冉尊(いざなみのみこと)を祀ったのが伊佐須美神社の創祀とされ、560年に会津盆地南縁に遷座して現在にいたる。
早朝、そんな会津の聖地を訪れた。初夏にはアヤメが咲き誇る外苑の庭園から大鳥居をくぐり、表参道を進むと大きな楼門が見えた。と、神の使いのような茶トラと三毛の猫2匹が門前に現れ、挨拶をしてくれた。
宮司の沼澤文彦さんによれば、先代の宮司が外で暮らす猫たちを不憫に思って面倒を見始めたのが神社と猫の馴れ初め。現在の神社猫は、白猫のシロ(メス)とロンドン(メス)の姉妹、同じく白猫でシロの子どものすみれ(メス)、すみれの子どもで茶トラのチャビ(オス)と三毛のチビ(メス)の5匹。
「神社を訪れる参拝客や氏子にシロたちが愛嬌を振りまいて、『癒された』と言われるのが何よりありがたいです。新型コロナ禍以前は、猫目当てに遠くから来てくださる参拝客もいて、中には年数回猫のゴハンを持ってきてご祈祷してくださる方もいました」と沼澤さんは笑顔で招き猫ぶりを称賛する。
お話を聞いていると、チャビが椅子に上がってきた。社務所の受付に置いてあるお守りの横にはシロが寝ていて参拝客を和ませている。境内を歩けば、すみれがすり寄ってきて撮影中には膝に乗ったり一緒に遊んだりしてくれる。チビは神社の敷地をくまなく歩くのが好きらしくあちこちで遭遇する。チャビが大好きで一緒にいると甘える姿が微笑ましい。こちらの様子を窺うロンドンは愛嬌のある顔がかわいい。気がつけば猫たちは思い思いの場所で寛くつろいでいて、ただそこにいるだけで癒された。
夕方、境内が静かになる時間帯に猫たちが本殿の前に集まってきた。後ろ髪を引かれる思いの帰り道、チャビとチビが楼門まで見送りにきてくれた。猫たちとの再会を期して境内を後にした。
伊佐須美神社
福島県大沼郡会津美里町宮林甲4377
TEL 0242-54-5050
http://isasumi.or.jp
小森正孝(写真・文)
1976年生まれ、愛知県一宮市出身。大阪芸術大学写真学科卒業。同大学副手として研究室勤務。現在フリーカメラマンとして猫撮影を中心に活動。写真集『ねころん』(株式会社KATZ)等。本連載のカレンダー『招福 神様・仏様・お猫様 〜神社仏閣の猫〜 カレンダー2022』が好評発売中。