本誌夏号でも紹介した引退馬牧場「ノーザンレイク」。そこで暮らす猫のメト(推定4歳♂)が人気GIホースのメイショウドトウ(認定NPO法人引退馬協会所有)の背に乗ったのがきっかけでノーザンレイクの馬猫たちの人気は急上昇。そして昨年12月6日に、フォトブック『ボス猫メトとメイショウドトウ』(辰巳出版)が刊行されました。どんなときもマイペースなボス猫・メトと馬たちの物語を、フォトブックより一部抜粋してご紹介します。
文・佐々木祥恵 写真・芳澤ルミ子
北海道日高地方沿岸の中部に位置する新冠町(にいかっぷちょう)は、日本有数の競走馬の産地となっている。その新冠町に引退馬の牧場「ノーザンレイク」がある。相方で元JRA厩務員の川越靖幸と、2人で引き取った愛馬キリシマノホシ、そしてキリシマの友達として譲り受けたアシゲチャンとともに、ノーザンレイクに足を踏み入れたのは2020年7月15日。その3日後、ニャアという鳴き声とともに草むらの中から突如現れたのが、茶白で鍵しっぽの猫、メトだった。
調べてみると、鍵しっぽの猫は、しっぽの曲がった部分に幸運を引っ掛けてくると言われていることがわかった。まさか本当にノーザンレイクにたくさんの福を招く猫になるとはこの時は想像だにしなかった。
メトは異常に人懐っこくよくおしゃべりをし、来客があるとすぐに出てきてもてなしをする。馬たちにもあっという間に馴染み、厩舎の中も我が物顔で闊歩していた。川越と私が些細なことで口喧嘩をすると、間に割り込んできて仲裁もする。いつしかメトは、ノーザンレイクのムードメーカーになっていた。
メトが癒やしているのは人だけではない。馬もだ。体の大きさに違いはあれど、馬たちはみんなメトに寄り添い、メトもまた自由に馬たちとの交流を楽しんでいるように見える。人間と同じように猫の柔らかな体に鼻をうずめている時の馬の優しい瞳を目にすると気持ちがなごむ。と同時に、馬をも魅了するメトの癒やしのパワーに驚かされる。
馬は臆病な性質だが、メトに警戒することは一度もなかった。彼らはとても自然に、当たり前に互いの存在を受け入れていた。馬たちとメトは、お互いに自分たちの仲間であり、そこにいるのが当たり前の存在となっている。厩舎や牧場内では馬たちと猫1匹で、ひとつのチームなのだ。
2021年6月、人気ゲーム「ウマ娘」のモチーフにもなっているメイショウドトウとタイキシャトルが仲間に加わり、牧場内の空気が変わった。Twitter( 現X )のフォロワーが毎日100人単位で増えていき、それまで1000人に満たなかったフォロワーがあっという間に1万人を超えた。メトが2頭に絶妙に絡むものだから、メトの人気も急上昇。2022年5月にドトウの背中にメトが飛び乗った動画をsnsにアップするとドトウ&メトの人気は爆上がりし、メディアでも取り上げられるようになった。ネットやテレビなどメトが主役の取材も増え、2023年にはとうとう猫雑誌「猫びより」から取材依頼(しかも執筆は私)が舞い込んだ。まさか猫雑誌にメトが主役で掲載され、私自身も猫雑誌で記事を書く日が来るとは夢にも思わなかった。
それがきっかけでこのフォトブックを出版するという驚きの展開になった。この機会に猫好きの方をはじめ、より多くの方に馬の持つ魅力に触れてもらい、競走や繁殖、乗馬から引退した馬たち、そしてそのような馬たちが暮らす牧場の現状を知ってもらいた
いと書き綴った。メトやメイショウドトウをはじめとする馬たちの暮らす小さな牧場の物語を楽しんでいただければ幸いだ。
A5判 オールカラー112頁 定価:1,650円(税込) 好評発売中!
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楽天ブックス:https://books.rakuten.co.jp/rb/17676566/?l-id=search-c-item-text-01
売り上げの一部はノーザンレイクの馬たちのために使われます。
佐々木祥恵
北海道旭川市出身。競馬ライター。netkeiba.comで引退馬コラム「第二のストーリー~あの馬はいま~ 」を執筆。2020年7月から元JRA廐務員の川越靖幸とともに新冠に移り住みノーザンレイクを開場、雑用係として働く。人と馬をより身近にするサイト「Loveuma.」にて「ノーザンレイクダイアリー」を週1連載中。