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寄りそう猫「陸くんの贈り物」

険悪な仲の2匹の間を取り持つために迎えられた愛らしい猫。だが、彼は病気を発症し……。

由梨さん提供

陸は、この家に迎えられた3匹目の猫だった。スレンダーな肢体と、輝く瞳を持っていた。そして、とても人懐こかった。

保護されたのは、へその緒がついたままの生後数日のとき。マンションの側溝から子猫の鳴き声がしているのに住民が気づき、蓋を持ち上げようとしたが重くて上がらす、消防署員10人による救出劇となったという。保護主から保護団体経由で、ミルクボランティアの由梨さんのもとへ。他の預かり子猫たちと一緒に、2か月まで慈しんで育ててもらった。

この家のお母さん、裕子さんが無邪気な陸を3匹目として望んだのは、先住猫2匹の仲の悪さが原因だった。

先住猫の風と華は、それぞれワケアリで、2年前の夏にやってきた。

ブリティッシュ・ショートヘアの男の子、風くんは、「あごズレと噛み合わせオーバー」のために売れ残っていたのを、哀れに思った裕子さんに迎えられた。

その直後に、なりゆきで引き取ったのが、50匹多頭飼育崩壊現場から救出されたばかりのアメショーの華ちゃん。

裕子さんは、幼い2匹が仲良し姉弟となり、毛づくろいし合ったり、くっついて眠る姿を夢見ていた。

だが……裕子さんの夢は、無残にも破れた。華は、飼い主夫妻に触らせもせず、気に食わない風がそばを通るだけでシャアッと般若の形相になった。

風のどんくささは、兄妹だけのケージ内生活で育ったため、人間や他の猫にどう対応していいかわからないからだった。

華が癇性なのは、狭い家での未手術多頭飼いだったため、おとな猫に襲われないよう必死で逃げ回る毎日だったからだ。

人間に甘えることや子猫らしい遊び方も知らずに育った2匹なのだった。

このままでは、華も風も可哀そう。そこで、天真爛漫な陸につられて、少しは仲良くなってくれれば、と希望を託したのである。

裕子さん提供

飛んだり跳ねたり、毎日を全力で生きている陸。そんな陸と風はすぐに転げまわって遊ぶようになり、華も陸には、心を開いていく。

3匹一緒にキッチンで悪さをしたり、裕子さんの振る猫じゃらしにハッスルしたり……。だが、華と風の間だけはなかなか縮まらないままだった。

裕子さん提供

あるとき、裕子さんは気づいた。華の耳がよく聞こえていないのではないか、と。獣医さんへ連れて行くと、やはり、難聴だった。

気を遣って接するようにすると、華は少しずつ、甘える様子を見せはじめ、裕子さんの後をついて回るようになった。

「夢の猫団子」という希望がかすかに見え始めたころ。陸が、元気をなくした。あんなに食いしん坊だったのにご飯を食べなくなり、だるそうにしている。

診断の結果は、FIP(猫伝染性腹膜炎)。有効な治療法が見つかっておらず、あっという間に悪化をたどる病気だ。

一緒にいられるのは、あとわずか。陸を最初に保護してくれた女性と連絡が取れ、会いに来てくれた。

陸には保護後に、亡くなったきょうだいが1匹いたことを、裕子さんは知っていた。だが、その方の話で、消防署員たちによる救出時に、すでに亡くなっていたたきょうだいが、もう1匹いたことも知った。

「陸はたったひとりで生まれてきて、天国にもひとりで旅立っていくのではなかった。天国で待っているきょうだいの分も、たくさんの人に守られ、愛されたいのちだった。引きちぎられるような悲しみが少し和らいだ気がしました」

生まれてからたったの1年も生きることなく、陸はお星さまになった。愛らしい少年のままで。

火葬に出した夜、真っ暗な階下にひとり降りて「にゃーおにゃーお」と陸を呼ぶ風を、裕子さんは抱きしめて号泣した。

裕子さんの頬にどれほどの涙が流れただろうか。

陸がいなくなって、1年半。いつのまにか、風と華は、くっつくようになった。陸のいなくなったすき間を埋めるかのように。

裕子さん提供

裕子さん提供

裕子さん提供

風が華に甘える。そんな風をウザがりながらも毛づくろいしてやる華。華の目は、丸く穏やかになった。

「こうして2匹がくっつく日が来るなんて。華が風に抱っこさせる日が来るなんて。陸は、2匹を仲良くさせる使命を帯びて、天から舞い降りてきた天使だったのね」

そう思うと、微笑みがわいてくる。陸、短い間だったけど、うちの子になってくれて、ほんとうにありがとう。

あれほど夢見た猫団子を、今は2匹で毎日のように見せてくれる華と風。

裕子さんの目には見える。大きくなった2匹の真ん中には、まだ少年の陸。寄りそい合って、3匹の猫団子だ。


 

寄りそう猫
佐竹茉莉子・著

定価:1320円(税込)
単行本(ソフトカバー)
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※この物語は、2019年発行当時のものです。

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