もうすぐ春。さっちゃんがここに来て「幸多かれ」と「サチ」という名をもらって、10回目の春です。
さっちゃんたちの暮らす里山に、四季は巡ります。
春の里は菜の花色に染まって、ウグイスの声。ヤマザクラが咲いて散り、畑では、青物がぐんぐん育ちます。
夏休みは、花はなの里をかけ回る子どもたちの歓声が里山に響き、トンボが乱れ飛びます。
犬も猫も思い思いに、風の通り抜ける場所でお昼寝。
秋には野山はオレンジ色。猫たちは連れだって、落ち葉の道を遠足に。
冬の猫たちは日なたを移動。野水仙がいい香り。日が陰ったら、猫小屋の毛布にもぐりこむか、カフェの暖炉のそばへ。
里山に生きとし生けるものはみな、同じ季節の巡りを生きている仲間です。
長平パパも、麻里子ママも、犬も猫も。さっちゃんだって、他の猫たちと同じ季節を同じように生きている、おんなじいのちです。そう、新入り猫も。
新入りちくわくんといえば、猫小屋にずっと前からいるような顔をしておさまっています。
ごはんも寝るのもみんなと一緒。
そして、なんと、新入り子猫謙治(けんじ)くんの面倒をさっちゃんたちとともに見てやっています。
謙治くんは、民家に迷いこんだひとりぽっちのノラの子でした。さっちゃんがママ役を引き受け、先輩猫たちに遊んでもらって、もう「里山の子」です。
クルクルとよく働いた一日を終え、暖炉のそばで、サチに話しかけるひとときが、麻里子ママの明日への活力。
「サチ、今日もいい一日だったね。いろんな人が会いに来てくれたね。明日もみんな元気で過ごそうね」
自分の受けた愛情を、次にやってきた者に惜しみなく注ぐ。
より弱い存在をかばう。そんな順ぐりの、自然体で大きな愛情と共生観をさっちゃんと仲間たちは持っています。
人間の「ペット」ではないからこそ、動物本来の「慈しむ気持ち」が、ここには息づいているのかもしれません。
写真と文:佐竹茉莉子
※犬猫たちの顔ぶれは、本書発行の2017年当時のものです。カフェは現在休業中。