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里山の子、さっちゃん EP:10「巡るいのち」

やってくる猫たちを分けへだてなく可愛がってくれた先輩猫たち。

いのちのバトンを受け継いで、里山の子は元気に生きていきます。

里山のムードメーカーだった三毛猫のレモンおばさんが旅立ったのは、里にコスモスが咲き乱れる季節。

元は、海辺の公園に捨てられていた子猫。さびしがり屋で、ごはんをくれる人の足にまとわりついて離れなかったため、ダムに連れてこられたのでした。

陽だまりのような穏やかな性格で、新入り子猫がやってくると、さりげなく散歩に付き添ったり、安心させるかのように寄り添ったり。どの猫からも慕われていました。

もちろん、サチも、ミカンも、ライムも、ゴローも、ヒデキも、ヒロミも、お世話になりました。

そうそう、こんなことも。

花はなの里をロケ地に、怪獣と闘うヒーロー映画を撮りに来た監督が、ライムちゃんを見初め、「猫怪獣」なる役を急きょ作ったことがありました。

ライムちゃんは、リハではうまく動いてくれたのですが、本番でトンズラ。代役を見事に務めたのがレモンちゃんでした。

ゴローくんがまだ小さいときは、どこまで行ってしまうかわからないゴローくんの後をそっとついていく姿が、まるでやんちゃ王子を守るやさしい乳母のようでした。

アウトドア派のレモンちゃんは、草の上でゴロンゴロンするのが大好きでした。だから、レモンちゃんの背中には、いつも枯れ草が。

レモンちゃんに負けないくらい誰にもやさしくて、これまたみんなに慕われていたおじいちゃんが、ララちゃんです。

やさしい顔なので、メス猫だと思っていた人も多いようです。

片耳が折れていて、春夏秋冬、カフェの入り口付近で、飄々と風に吹かれている姿が、ダムの風物詩でした。カフェのお客の中には、ララちゃん会いたさに通っていた人も。

写真提供=下間真理子

子猫時代のさっちゃんが、毎日懸命に自分でリハビリをして、草の上を歩けるようになったとき。

それを見ていたララちゃんが、近づいていって、「えらいね」とねぎらってやった光景を、麻里子ママは今も忘れません。

ライムちゃんがやってきたときもそうでした。ハッピーママの溺愛から抜け出して、ひとりでカフェの前庭の探検に出かけたライムちゃん。

ララおじいちゃんのペロペロ歓待を受けていました。

ララちゃんは、高齢のため、どんどん動きが緩慢になっていき、ベッドで寝たきりになりました。

「今晩がヤマ」と獣医さんが言うのを数日持ちこたえ、サチとハッピーが心配そうにベッドに付き添いました。

旅立ちは、病院の点滴室ではなく、大好きなデッキの上。麻里子ママに抱かれ、里山の風に乗って旅立っていきました。

空っぽのベッドのそばで、立ち尽くしていたさっちゃんは、この夏、尿道の大手術をし、一命を取りとめたばかり。術後は良好で目に力が戻っています。

レモンちゃんやララちゃんが、いのちの引継ぎをしたのでしょう。

里山の猫が旅立つと、麻里子さんは、先祖代々の墓のそばの、猫たちの共同墓地に、深い穴を掘って埋めてやります。

そして、里山に咲いている季節の花を摘んで一緒に入れてやります。

お墓のそばには、あすなろの木が一本。不思議なことに、埋葬するたびに、木はグンと大きくなるのです。

里山の自然の中、いのちも魂も散らばって宿ったかのように。

だから、麻里子ママは、こう思っています。

「亡くなった子たちは、見えないだけで、後輩たちに混じって、いつも楽しく里山中を飛び回って遊んでいるんじゃないかしら」

お墓があるのは、花はなの里を見下ろせる里山の中腹。

ロッジのお掃除に行くとき、麻里子ママはいつもこの小道を通ります。

「今日はいそがしいわ。元気ちょうだいね~」なんて、話しかけながら、通るのです。

「お墓参りに行くよ~」

そう麻里子ママが声をかけたら、サチとゴローと、ライムがついてきました。真剣な顔で山道を登るさっちゃんです。

白い花束があるのは、お客さんが手向けてくれたものです。

しばし墓前で神妙な顔をしていたさっちゃん。くるっと向きを変えました。もしかしたら、さっちゃんたちの目には、見えているのかもしれません。

カフェに入れば、暖炉のそばの机の下にちょこんと座って、「ここが好きだから、いつも来ちゃうんだ。しーっ、ニンゲンには内緒だよ」と、いたずらっぽい目をするララおじいちゃんが。

池のほとりの陽だまりや、落ち葉が降り積もった山へと続く小道では、「ほらほら、そっちへ行くと溝があって危ないよ」と、あれこれ世話を焼きながら、付き添ってくれるレモンおばさんが。

里山の子、さっちゃん
佐竹茉莉子・著

定価:1320円(税込)
単行本(ソフトカバー)
amazonで購入

写真と文:佐竹茉莉子

※犬猫たちの顔ぶれは、本書発行の2017年当時のものです。カフェは現在休業中。

 

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