神様・仏様・お猫様 神社仏閣の猫 第26回 岐阜 「善光寺 安乗院」

何にでも好奇心を向ける寺猫のトム

1555年、戦国武将・武田信玄は、信州善光寺の本尊である善光寺如来像を戦禍から守るため、甲斐善光寺に遷座させた。信玄の死後、今度は武田家を滅ぼした織田信長がこれを岐阜に移し、その後も豊臣秀吉、徳川家康ら時の権力者の意向で各地を転々とした後、1598年に信州善光寺に戻された。

木登りが好きなトムは、カサカサ音がすると素早く反応する

遷座の後も岐阜では、信長の孫・秀信が伊奈波善光寺堂を建立して善光寺如来像の分身を祀り、岐阜善光寺として現在に至っている……。

御朱印の受付近くで

そんな由緒を住職の松枝秀乗さんに伺っていると、足元に猫がすり寄ってきた。「その猫はトムといいます。保護した猫を預かったところ、家族にも馴れたのでそのまま迎えることにしました」

居心地の良い場所を見つけてはよく寝ている

最初に飼ったのは、松枝さんが小学校のころ、お客さんと一緒に入ってきたまま居ついた猫だった。ウーマンと名付けられたその猫は気が強く、境内にいた2匹の野犬を追い回すなどして立派な番猫ぶりを発揮。おかげで寺の周りからめっきり野犬が少なくなったという。

トムには桜が本当によく似合う

その後も迷い猫や保護猫がやってきて、6代目のトムに至るという。

納経所の窓は自分で開ける。帰る時も自分で開けて入るが窓は閉めない

納経所へ行くとトムが自分で窓を開けて外に出て毛繕いを始めた。松枝さんが「歴代の寺猫の中で一番人懐こい」と評するだけあって、サービス精神旺盛でよく参拝客の相手をしている。カメラを向ければポーズを決めてくれる。好奇心旺盛で人と遊ぶのも楽しんでいる様子だ。

横顔がとても美しい

リスからお供え物を守るのも寺猫の務め。木登りをしたり、草むらを見つめたりする姿もよく見かけた。遊んでいるようで、実は仕事中だったのかもしれない。

住職の松枝さんとトム

「生き物には、弱い者に寄り添い思いやる心が本能に備わっていると思います。ただ人は考えすぎて手を差し伸べるのをためらうことがありますが、猫も含めて他の生き物には迷いがありませんね。人が見習うべきところかもしれません」

暖かな日差しにあくびが出る

トムに目を細めながら語った住職の言葉が心に残る。

夕焼けが本堂を照らし始めると、トムは灯篭に登って沈む日を眺めていた。今日も一日、おつとめご苦労さまでした!

岐阜善光寺 安乗院
岐阜県岐阜市伊奈波通1-8
TEL 058-263-8320
https://gifuzenkoji.jp

小森正孝(写真・文)
1976年生まれ、愛知県一宮市出身。大阪芸術大学写真学科卒業。
同大学副手として研究室勤務。現在フリーカメラマンとして猫撮影を中心に活動。写真集『ねころん』(株式会社KATZ)等。
HP:https://komorimasataka.com/home

-特集, 猫びより
-