赤ひげ先生インタビュー「浅草橋 ねこの病院」 岩下理恵

取材・文 西宮三代 写真 平山法

岩下先生と次郎さんがお出迎え

個性豊かな3匹の元保護猫がお出迎え

「浅草橋 ねこの病院」は、JR浅草橋駅から清洲橋通りを歩くこと約8分。初めて来た人でもすぐわかる、大きな猫デザインの入り口が目印だ。院長の岩下理恵先生の案内で待合室から処置室に入ると、待っていてくれたのはサビ柄の「バロン」(12歳オス)と白黒ハチ割れの「次郎」(13歳オス)。

バロンちゃんはスタッフの中野久美子さんの愛猫で、ときどき診察を受けに来るそうだ。中野さんは、ここに勤務する前から地域猫の面倒を見ていたことなどから猫に詳しく「猫の接し方がうまい」と評判で、来院時に「今日は中野さんいますか?」と尋ねる飼い主さんも少なくない。

次郎さんは、初対面の人にも目を細めてスリスリ、ゴロゴロ、背中をノビ~。岩下先生と処置台を挟んで話をしていると、突然、猫舎の最上階からダイブして2人の間に「ストン!」と着地。「話題はボクのことかな?」と言いたげに自慢のソックスフットでしゃなりしゃなりと華麗に歩く姿は、看板猫の貫禄だ。

引き出しからこんにちは

そしてもう一匹、猫舎の下の引き出しを開けたところに寝ていたのが、鼻のホクロがトレードマークの白黒の「ふぁん」(11歳オス)。ふぁんちゃんは、以前は病院で暮らしていたが、今は先生の自宅で、ご隠居生活を満喫している。今日は久しぶりに病院に来てくれ、勝手知ったる引き出しの中に潜り込み、早々に休んでいたようだ。

中野さんと愛猫のバロンちゃん、後ろにはちゃっかり、ふぁんちゃんも

「次郎さんもふぁんちゃんも元は保護猫で、勤務医時代に縁あって里親になりました。当院でも、ときどき病院に預けられた保護猫の里親探し(かかりつけの飼い主さんや関係者に限る)をすることがありますが、彼らは『うちの子になる?』とか『おうちが決まったよ』と言った瞬間に表情が和らぎ、嬉しそうに『ゴロン、ゴロン』するんですよ。次郎さんもふぁんちゃんもそうでした。猫と人は以心伝心、伝わるものがあるのでしょうね」
 
長年の夢だった猫専門病院を開院

インタビュー中にアピールする次郎さん

岩下先生と猫との出会いは、先生がまだ幼稚園に通う頃。「家に猫が来て、一緒に暮らすようになってからもう猫に夢中で。近所の野良猫の心配をしたり、今振り返っても私のそばにはいつも猫がいました。猫の魅力は『猫そのもの』でしょうか」。

〝実家が動物病院〟という岩下先生は、獣医師の父の影響を受け、迷わず同じ道に進むことになる。

「高校生の頃から『獣医になったら猫だけを診たい』という想いを抱いていて、勤務医の頃もある程度、猫を専門的に診療させてもらっていました。当直のときは、夜中に猫の急患の連絡があると飛び起きて、万全の治療体制で、まだかまだかと待っていました(笑)。でも、この先実家の動物病院を受け継ぐとなると猫だけを診るというわけにもいかず…… 。自問自答を繰り返し、悩みに悩んだものの、『猫だけを診たい』という長年の夢は捨てきれず、2012年2月22日(猫の日)に、猫専門病院を開院しました」。

台東区に開院した理由は、勤務医として働いていた頃から、地域の人々の気さくで優しい人柄が好きだったこと。開院当時は岩下先生の出産と重なるなど、かなり慌ただしかったそうだが、大学の後輩である相馬淳子先生の協力が支えとなった。

相馬先生は開院からずっと勤務を続け、今は大学の同級生だった齋藤礼子先生も加わり、現在、2児のママとなった岩下先生とともに、家庭を持つ3名の猫専門の女性獣医師が、曜日担当のシフト制で診療にあたっている。
 
地域の獣医師や専門医と連携しながら最善の治療を目指す

診察台の上で堂々たるふぁんちゃん

「女性獣医師は、結婚や出産などのライフイベントでやめてしまう人が多く、理由の一つに、長時間勤務といった職場環境と家庭との両立が難しいことがあります。でも、せっかく得た知識や技術をそこで終わらせてしまうのはもったいないことですし、何よりも獣医師の仕事を続けたい女性にとって、『やめる』というのは、とてもつらい選択です。そうした背景も踏まえて、当院は、診療時間を10時~16時で完全予約制とし、女性獣医師が働きやすい環境にしました。当然、日々の中では『子どもが熱を出した』『子どもの学校の用事がある』など、様々な事情も生じますが、その都度、お互いに助け合いながら診療しています。このスタイルは、私、そして女性獣医師の未来をつなげるためにも、今後も続けるつもりです」

診療時間が短いと、なかなか時間内に来院できない飼い主さんもいるだろうが、そこは地域の動物病院との連携を深め、診療時間外は信頼できる受診先を提案するなど、猫と飼い主さんが困らないための配慮も欠かさない。

また獣医療の専門性を重んじる岩下先生は、大学病院などの高度医療機関や開業医に「この疾患なら専門はこの先生」というアンテナを多く持ち、例えば皮膚病なら皮膚専門、てんかんなど脳の病気なら脳神経専門、骨折なら整形手術の上手な獣医師などに積極的に紹介している。

「町医者は、治療できることとできないことをしっかり線引きできることが大切で、それが結局猫のため、飼い主さんの安心できる獣医療を提供していきたいと思います」

 

Iwasita Rie
2002年、日本獣医畜産大学(現・日本獣医生命科学大学)卒業。都内の動物病院勤務を経て、2012年、「浅草橋ねこの病院」を開院。小学生、保育園児の2児の母。趣味はミュージカル鑑賞。

浅草橋 ねこの病院
東京都台東区浅草橋5-20-8 CSタワー1F
TEL 03-5829-8570
診療時間/10:00~16:00(完全予約制)
日・祝日休診
https://www.cat-hospital.jp

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