【猫は働き者】老舗青果店のアイドル店長・めい

文・片山琢朗/写真・芳澤ルミ子

「買い忘れはない?」とアピールして売り上げに貢献するめい店長

神奈川県横浜市の鶴ヶ峰商店街にある、創業67年の喜久屋青果店。地元の人が多く利用している一般的な街の八百屋さんですが、インスタグラムのフォロワー数はなんと2万人(2023年6月現在)。そこに貢献しているのが、店長を務める一匹の猫なのです。

お客さんの出迎えと見送りはこの場所から。 「いらっしゃいませ~…zzz」

ネズミ除けで迎られ

昭和の雰囲気漂う喜久屋青果店には、新鮮な野菜や果物が所せましと並び、次々とお客さんが買い物に訪れます。常連さんたちが「この辺りで有名!」と口を揃えるのが、店で飼われている茶白猫のめい(7歳♂)です。体重6.5kgのどっしりとした風貌で、レジの横に佇んでいます。ここがめいの定位置。
「めいちゃん、こんにちは」
「今日もかわいいねー」
「あら、寝ちゃってるの?」
「また太ったんじゃない?」
そこにいるのが当然のように、めいに声をかけるお客さんたち。喜久屋青果店の日常の光景です。

声をかけてくれる人へのファンサービスも欠かしません。寝ながらですが

 

近所のカレー屋さんのお兄さんとは仲良し

「まだ子猫だったときに、保健所に連れて行かれそうになったところを保護しました。ネズミ除けとして店で飼い始めたら、いつの間にか店頭に出て接客するようになったんです。人が大好きみたいで」
そう話すのは、ご主人の中村寿男(としお)さん。店のお客さんは地元の顔見知りがほとんど。「フレンドリーな接客が売りだけど、自分は人見知りだ」と笑います。一方で「めいちゃんは真逆。老若男女に友好的で、誰が撫でても抱っこしても平気」と言い、お客さんへの神対応に太鼓判を押します。ただ肝心のネズミ除けは、あまり動かないめいに「期待できない」と、本来の務めは果たせていない様子。それでも、お客さんに癒しを与えている実績が認められ、店に来てからわずか半年で店長に任命されました。

住み込みで働いています

めい店長の朝は早く、寿男さんが8時にシャッターを開けると、朝ゴハンを手早く済ませて店頭に立ち(座り)ます。まだ商品が並んでいない店先の陳列台から、商店街を行き交う人たちに向かって挨拶するのが、店長としての朝の日課です。

周辺パトロールも店長の務めと店内を闊歩

相模鉄道(相鉄線)の鶴ヶ峰駅周辺はベッドタウンとして発展し、鶴ヶ峰商店街は駅とバスターミナルを結ぶ、連絡通路の役割も果たしています。
「通勤・通学で店の前を通る人たちを眺めるのが好きみたいです。顔なじみのお客さんは、めいちゃんにおはようって声を掛けてくれます」
と教えてくれたのは、店のインスタを管理している、娘の由紀さん。もともとは「店の宣伝になればと思って、2019年に開設した」というSNS。「かわいいから」と、めい店長の仕事ぶりを写真や動画でアップしたところ、それがたちまち話題になり、テレビや雑誌でも取り上げられるようになったそうです。今ではめい一色のインスタに。

ある日の投稿では、閉店間際に店先のいつもの陳列台に座って、最後のお客さんを見送る姿が映し出されていました。何とも健気な姿ですが、めい店長にとっては閉店時のルーティン作業。寿男さんがいつもの晩ゴハンを用意し、冬は暖かく夏は涼しい寝床を作ってめいを寝かせ、シャッターを閉めて一日が終わります。

野菜が入っていたダンボールや発泡スチロールが大好き

~めい店長のある日の就業スケジュール~

8:00~始業・朝の挨拶
10:00~周辺パトロール
12:00~店番
14:00~寿男さんと休憩
15:00~店番
18:00~閉店作業・見送り

営業中はいつも一緒

午前中は店の前をパトロールし、午後はレジ横のお決まりの場所で店番です。

「パトロールって言っても、店前の陽が当たる場所で日向ぼっこをして、レジの横で寝ているだけなんだけどね」と、うれしそうに言う寿男さん。会計を待つお客さんの手が届く場所で寝ているめい店長。まるで、「お待たせしている間、自由に触ってください」と言っているかのような無防備さです。

仕事中のごろ寝も業務として認められています

寿男さんが休憩を取る午後2時になると、めい店長は一足先に裏の休憩場所へと向かい、「早く休もう」とばかりに寿男さんを呼びます。作業が終わらずに休憩に入る時間が少しでも遅れると、寿男さんに向かって不満そうに鳴きます。寿男さんが「ごめんね」と謝り、並べたダンボールの上に横になると、「いいよ」と言っているかのように寿男さんのお腹の上に乗って眠るのがいつものやり取り。

お客さんの相手をしている寿男さんの肩に飛び乗ることもしばしばで、「ふたり」の仲睦まじい姿は店の名物でもあります。

「父の肩に乗るのが大好き。私の肩には乗りません。朝から夜までいつも一緒ですし、ゴハンをあげるのも父なので、父にベッタリです」と由紀さん。一朝一夕では築けないふたりの親密な関係性。「めいちゃん」と呼ぶ寿男さんの目尻が下がります。

肩に乗るのは寿男さんだけ。厚い信頼関係

商店街を盛り上げる

1956年に父親が創業した喜久屋青果店を引き継き、妻のスミ子さんと二人三脚で、店を守り続けてきた寿男さん。かつては周辺に青果店がいくつもあったものの、今は商店街にたった一軒のみ。それでも、ご主人たちの頑張りと、めい店長の働きもあって、店は活気に溢れています。

「母は昔は猫が嫌いだったけど、今は大好き。お客さんだけじゃなくて働くみんなも笑顔になって、めいちゃんが来てから店が明るくなりました」と、由紀さんは言います。めい店長は職場の環境づくりにも貢献しているようです。

「めいちゃんは可愛い」とデレデレのスミ子さん

店内に飾られているめい店長の大きなパネル写真は、ファンだという写真家の方が撮影してプレゼントしてくれたもの。そのほかにも、スイカの形をしたキャットハウスや可愛いタオル、たくさんの遊び道具がそこここにあり、そのほとんどがお客さんからの贈り物です。遠くは福岡から来てくれたお客さんもいるのだとか。向かいにあるプリントショップでは、めい店長のポストカードや缶バッジを販売し、お客さんに喜んでもらっているそう。スタッフの大内さんは、「めいちゃんは商店街のアイドルだから」と、一ファンのような温かい目。みんながめい店長を見守ります。

寿男さんは、「めいちゃんは寝てるだけなんだけどねー」と言うものの、その働きは確実に、店や商店街を盛り上げているのです。

プリントショップで売られているグッズ。人気はポストカード

 

喜久屋青果店
神奈川県横浜市旭区鶴ヶ峰2-21-18
TEL 045-371-2175
営業時間/9:00~19:00
定休日/日曜
Instagram:kikuya.seikaten

-猫びより