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猫も新型コロナウィルスに感染するの?

猫が新型コロナウイルスに感染! そんなニュースが話題になりましたが、猫への感染リスクや症状についての研究や感染対策については、ほとんど報道されていません。今、科学的に何がわかっていて、私たちは何をするべきなのでしょうか? コロナウイルス研究のエキスパートに話を聞きました。

監修・水谷哲也
文・西宮三代 写真・芳澤ルミ子

感染経路と症状

新型コロナウイルスが猫や犬にも感染するという話は様々なメディアで報道されていたので、知っている方も多いはず。でも「どのくらいの感染数なの?」「感染リスクはどれくらい?」「重症化するの?」など、感染の実態までは、ほとんど知られていない。情報が乏しい背景には、人と動物の検査体制の違いがある。

人の場合、発熱や咳、倦怠感などの症状があれば多くの場合、医療機関でPCR検査 (今現在、ウイルスに感染しているかどうかを調べる検査)が行われ、毎日、感染者数が割 り出されるが、猫や犬にこうした検査体制はない。

「猫や犬の検査は、世界各国どこもそうですが、半年から1年に1度、1000頭程度 の猫や犬の集団を対象に抗体検査(過去の感染を調べる検査)で調べます。その後、感染 状況の結果をまとめた論文が 公になるまでに約1年程度かかるため、人のようにリアルタイムにはわかりません」と、ウイルス学者で獣医師の水谷哲也先生は語る。

また飼い猫への感染は、1.人が外で感染し、2.家庭にウイルスを持ち帰り、3.猫に感染させる、という経路を考えるのが自然。「各国の調査でも、人の感染の波が低いときは動物も低く、高いときは動物も高いという結果が出ています。ブラジルのリオデジャネイロ州や米国のテキサス州のデータをもとにした論文によると、飼い主が感染したことのある猫に絞った抗体検査では、約40%が感染していたと報告されています」。

2022年に入ると、日本でもオミクロン株が猛威を振るい、大都市の感染者は1日1万人を超え、感染がより身近に感じられるようになった。もし自分が感染したら、一緒に暮らす猫に感染させることもあり得る。

猫が感染した場合の症状や重症度は「ネコ科は軽い咳が出るといわれますが、多くは無症状で、今のところ新型コロナウイルスに感染した猫の重症化や、感染症が直接の原因で死亡したという報告もありません」。

また、体内でウイルスを保持する期間は、人が約3週間なのに対し、猫は約1週間とかなり短い。新型コロナウイルスが、人の体温でベストなパフォーマンスを発揮する一方で、人より2~3度体温が高い猫の体内では十分なパフォーマンスができず、その分早く駆逐されてしまうためと考えられている。

飼い主の感染に備えて

私たちが新型コロナウイルスに感染すると、病状によっては入院をしなければならない。家族全員が感染し、家を空けることも考えられる。そこで生じるのが、飼い主が自宅を留守にする間、猫のお世話をどうするかという問題だ。同居する猫も感染が疑われるため、人への感染リスクもあり、引き受けてもらえるあても少なくなるだろう。感染が広がるほどこの問題に悩まされる飼い主は増えるはずだ。

しかし、今まで動物医療界にも行政にもこれに有効な対応ができる体制がなかった。そこで、この3月から水谷先生がセンター長を務める東京農工大学の感染症未来疫学研究センターと国立感染症研究所、日本獣医師会との連携による新たな取り組みが始まった。主な目的は、人から猫や犬への感染実態の把握とともに、入院などで飼い主が留守にする間、猫や犬を適切な飼育環境につなげること。

プロセスはこうだ。まず、獣医師会会員の動物病院が、新型コロナウイルス感染症で入院が必要になった飼い主から相談を受け付ける。獣医師は猫や犬の唾液を採取し、検体を東京農工大に送ってPCR検査を実施。検査結果は動物病院、獣医師会などに共有されつつ、陽性の場合は動物愛護センターなどの動物保護施設が飼い主の退院まで預かる※。陰性の場合は安心して、友人やペットシッターなどに世話を頼んだり、預け先を探したりすることができる。

「取り組みの起点になるのは、感染し、入院が必要になった飼い主が獣医師に相談することです。このアクションを進めるために、新型コロナウイルス感染の啓蒙も兼ねて、動物病院の待合室のモニターに説明動画を流し、飼い主が視聴できる取り組みも始まりました」

※預け先は各都道府県によって異なる。
 

完全室内飼いは防疫にも有効

前に記したように、飼い猫の主な感染ルートは飼い主から。では、感染した猫が他の動物に感染させるリスクはあるのだろうか?

「今、世界中で流行している新型コロナウイルスは、他のコロナウイルスと同様に、コウモリが宿主だと言われています。もちろん、簡単にコウモリから人に感染したわけではなく、長い時間をかけてウイルスが人への接触を繰り返し、偶然、人の体内で生きられるように変異したと考えられています。

この流れから心配されるのが、飼い主から新型コロナに感染した猫が外に出て、やがて野良猫や、アライグマ、ハクビシンといった野生動物に感染が広がるという事態。動物間の変異で強毒化しないという保障もありません。そうなると、たとえ人間界で感染が終息しても、野生動物からの感染リスクにおびえ続けなければなりません。

近年、交通事故、ケガ、感染症などから猫を守るために完全室内飼いが推奨され、外に出る飼い猫は少なくなりました。飼い主に感染の自覚がなく、愛猫に感染させていることがあるかもしれません。完全室内飼いの徹底は、今後新型コロナウイルスを野生動物に広めないという視点においても有意義といえるでしょう」
 
Mizutani Tetsuya
ウイルス学者、獣医師。東京農工大学農学部附属感染症未来疫学研究センター・センター長・教授。1994年北海道大学獣医学部大学院博士課程修了。国立がんセンター研究所ウイルス部研究員、国立感染症研究所主任研究員などを経て、現職。約25年間にわたりコロナウイルスを研究。2020年以降は、その知見を活かして、講演やYouTubeなどで一般に向けた新型コロナウイルスについての情報発信・啓蒙活動も精力的に行っている。著書に『新型コロナウイルス脅威を制する正しい知識』(東京化学同人)など。

-猫びより

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