「我が子」
ミケ母さんとボク君。仲睦まじくひっそりと廃屋で暮らしていた。
母さんは息子を溺愛している。
過剰な毛繕い、本気の遊び。
遊び過ぎで興奮して母さんが息子の耳をよく噛んでいた。そんな姿をお寺前の駐車場でよく見かけていた。
ある日、ボク君の里親になりたいという方が現れた。すぐ近所に住んでいる。穏やかな性格のボク君だ、きっと良い飼い猫になるだろう。皆、そう思って喜んだ。
ミケ母さんには悪いけど彼女のいない間にボク君を連れていく事になった。
あくる日、ボク君は大人しくキャリーケースに入りすぐ近くの新しい家まで運ばれた。
だが数日たって里親の方が困った事になった、とやって来た。
「三毛猫が家の外で毎夜毎夜大きな声で鳴いて困っている」
と。
ああ、どこかで見ていたのだろうか。母さんは息子の居場所を掴み取り返しに来たのだ。
よくある話かもしれない。しかし皆、別の理由で驚いていた。
ボク君は生まれてすぐ母親に捨てられてしまった。ミケ母さんは実の母親ではない。血の繋がりがないのに、まるで我が子のように接していたのだ。
近隣の皆でどう対処するか考えに考えた。里親さんは2匹は飼えないと仰っていた。不妊・去勢手術をした上で元に戻す案もあった。
だが、奇跡的に別の里親さんが現れ、母子共々、保護してくれたのだ。お寺さんの檀家さんで、よく母子を見かけて可愛いなぁ、と思っていたそうだ。
いまでは不妊・去勢手術も施してもらい元気に暮らしているそうだ。
赤の他猫。人間が考える以上に強い絆で結ばれている"親子"だ。
text&photo/Kenta Yokoo