猫だって……「邪魔な命なんかひとつもない」

居候していた牧場から「保健所行き」の宣告が!

危機一髪のちくわくんを迎えてくれたのは、ひとつ屋根の下で、ワケアリ猫たちが暮らす里山でした。

オレ、ちくわ。この前まで、とある観光牧場で暮らしてた。といっても、オレが勝手に居着いちゃっただけなんだけど。

ノラだったオレが、空腹のあまり入り込んだとこは、牛やら羊やらいっぱいいて、休日には家族連れでにぎわう大きな観光牧場だった。ここは動物好きが集まるところなんだと安心して、居候を決め込むことにしたんだ。

ご飯は、スタッフやバイトのお姉さんや、お客さんがこっそりくれた。牧場内を、オレは自分の庭みたいにお気楽に歩き回り、羊の行進とかのイベントにも自主参加してたんだ。

ところが、それが牧場経営のお偉いさんの耳に入っちゃった。

「邪魔だ。保健所へ送れ!」

仕方なく、スタッフたちはオレを追っかけ回した。だけど、オレ、他に行くところがないから、逃げては舞い戻ってた。バイトのお姉さんが必死に電話をかけまくって、オレの行き先を探してくれた。

里山カフェをやってる麻里子さんが電話の向こうで「連れておいで」と言ってくれたのは、オレの命の期限ぎりぎりの日だった。

麻里子さんは、オレが3歳過ぎのオス猫で、これまで一匹狼で暮らしてた放浪猫だから、ここにいる猫たちとうまくいくか心配したらしい。

他の猫たちは、みんな仔猫の時に持ち込まれて、先住猫に面倒を見てもらって、また次にやってきた新入りの面倒を見るって具合に、順繰りにうまくいってたからね。

オレは様子見のために猫小屋の中の大きなケージに入れられた。でっかい風体で、ガツガツご飯を食べ、朝夕でっかいウンチをする新入りを、みんな呆れて眺めてた。

「オレ、新入りのちくわ。よろしくな」

オレはひたすら下手に出て、大きな図体してるけど、平和を乱すような厄介な奴じゃないことをアピールした。

ゴローくんは、「なんでケージにいるの?」って、よく話しかけてくれたし、ヒロミちゃんは、歓迎のタッチをしてくれた。

2週間後、オレは広い猫小屋内でフリーにしてもらった。いろんな場所に毛布があって、どこでも好きなとこで寝ていいんだって。

初めての毛布、初めての屋根の下、初めての仲間。うれしくって、毛布の上でコネコネといろんなポーズをしちまったぜ。

ゴローくんやヒロミちゃんたちは、全身マヒのさっちゃんを囲むようにして、真ん中の大きなベッドで寝るんだけど、オレはひとまずソファーの上を選んだ。寒くなってきたら、みんなに混ぜてもらうつもりさ。

しばらくたって、外にも出してもらった。ゴローくんたちが裏の原っぱに案内してくれた。

ああ、なんて気持ちのいいところなんだ。ゴロンゴロンできるクローバーの草むらや、木登りできるいろんな木や、探検できる納屋や裏山。

それに、広い空。やさしい父さんと母さんと仲間たち 安心して、へそ天で寝ころんでいられるじゃないか。

遊びに来た子どもたちに、いつのまにかオレは囲まれてた。

「この猫、おっきくて強そう」
「だけど、なんかかわいい」
「あ、ゴロゴロ言ってる。すっごくかわいい」

え、オレ、まさかの里山カフェの人気者に? えへ、「背中にハートと天使の羽根があって、触るといいことがあるラッキー猫」って有名になったりして。

オレ、もう追いかけ回されなくていいんだね? 邪魔な命なんてひとつもないよね?

もう、みんなと同じ里山の子になったんだよね。
 

猫だって……。
佐竹茉莉子・著

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※このエピソードは、本が発行された2018年当時のものです

写真と文:佐竹茉莉子

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