ネコのとなりに [第15回]少年

ネコは身近な動物で、ヒトの社会の中で暮らしています。そのため野生動物とは異なり周囲の環境も含め、ヒトがいてネコは生きていけると思うのです。ヒトとヒトの間に繋がるいのち。今を生きる友達として向き合いながら、街の中にネコのいる風景が時代は変わってもあり続けてほしいと願うばかりです。

写真・文・イラスト平井佑之介


▲バッタを追いかける“ガリ”。駆けまわる姿が微笑ましい

初夏、茶白ネコの“ガリ”が何かを夢中に追いかけている。

フェンスの隅まで追いつめ、前足を伸ばして捕まえたのは大きく育ったカマキリだ。

しかしカマキリは巧みに反撃して逃げていき、“ガリ”はしょっぱい目で見送っていた。


▲“ガリ”は個性的な目でよく観察する。挨拶するのも得意

名前の由来は、今では想像できないほどガリガリにやせ細っていたから。

数年前、ゴハンタイム中のさくらネコの輪に突如現れたらしい。

僕が出会った頃は既にふっくらしていて何より遊びが大好きだった。

やんちゃな性格で何かに夢中になったときの表情に何とも言えな魅力がある。

仲良しのボランティアさんがじゃらす枝に、いつも嬉しそうに飛びついていた。


▲枝で遊んでもらう時間。本当に嬉しそう

また今日もハトを狙っている。でも成功したところは見たことがない。

距離を詰めるわけでもなく低姿勢でじっと狙うだけなので、いつもハトが先に気づいて逃げられてしまうのだ。

“ガリ”がかすれた小声で「ニャニャニャニャ」と鳴きはじめる。

枝先で遊ぶ小鳥を見つけたようだ。

お尻を3回振って勢いよく木を駆け登ったのと同時に、小鳥は飛び立った。

我に返った“ガリ”は、地上から10メートルほどの高さから降りなければならないことに気づいたようだ。

木に掴まるようにして後ろ足からやや不格好に降りていく。爪の構造上、幹にしっかりと引っかかる向きで降りるしかないらしい。


▲ずいぶん高いところまで登った。身体能力の高さに驚いたが、降りることを忘れていたみたい

雲は大きくなり、日が延びてゆく。

バッタが跳ねる音に耳を傾けてネコパンチ。

蝶の動きに心奪われて飛び上がり、着地に失敗する。

自然の中で“ガリ”は虫取り網を持った少年のように目を輝かせる。

そしていっぱい遊んだ分だけ、よ~く眠る。


▲たくさん遊んだから、眠たくなるね

花が目いっぱい季節を彩るように、春夏秋冬(まいにち)を全力で楽しんでいる。

ここ数年は危険なほどの猛暑だ。

“いきもの”たちが元気で暮らせるように、未来のことを考えて生活したいと思うのはネコ(ともだち)がここに暮らしているから。

カメラと飲み物を持って、今日も“ガリ”に会いに行こう。

時間とともに景色は変わる。

けれどもネコにとって大切な遊び場は変わらぬように。

少年のままに心弾ませ遊んでおいで。


▲ダメと言われると気になる。気になることがあれば、所かまわず覗き込む

Hirai Yunosuke
いきもの写真家。1988年生まれ。日経ナショナルジオグラフィック写真賞2015優秀賞。島や商店街で暮らす猫から、イルカやヘラジカなどの野生動物も撮影。『Nikon D800 ネコの撮り方』電子書籍出版。

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