猫だって……「ちゃんと家族の一員さ」

小さな商店街の青果店。店先に座るのは、どっしり大きな茶白猫。毎朝、トラックの助手席に乗って出勤してきます。

母ちゃんの運転するトラックの助手席に乗って、今日も、おいらは店にご出勤。店までほんの10分だけど、道中景色が楽しめるように、助手席はおいら仕様で木箱を置いて高くしてあるんだ。愛されてるだろ。

「おう、とら、来たか」

ひと足先に店に出て、開店準備をしてた父ちゃんが、おいらに笑いかける。おいらは、父ちゃん母ちゃんの自慢の次男坊なのさ。

「藤原青果店」は、父ちゃんと母ちゃんとおいら、家族でやってる店なんだ。父ちゃんが仕入れ部長、母ちゃんが販売部長、おいらが営業部長ってとこかな。

おいら、10年前まで、流れ者のノラやってたんだ。ちっちゃい時の猫風邪で、右目が白く濁ってるけど、不自由はしなかったさ。あの日は、朝からなんにも食ってなくて、食いもん落ちてやしないかと歩いてたら、この商店街まで来ちゃったんだ。「おいで〜」道の向かいから声がかかった。

おいら、通りを渡って、母ちゃんに食いもんもらって、そのまま店に居着いちゃったのさ。父ちゃんとも、すぐに気が合ったし。

あとで母ちゃんにその時のこと聞いたら、こう言うんだ。

「あんまりトボトボ歩いてんだもん。その様子が可哀そうでさあ」 当時、父ちゃんたちは家で、猫が苦手な室内犬を飼ってたから、おいらはとりあえず店猫になったのさ。閉店してからも店を離れずに、シャッターの前の荷台の上で夜を過ごしてた。

そんで、ワン公が旅立ってから、おいら、晴れて家猫になったんだ。

父ちゃんが表札に、父ちゃん、母ちゃん、長男(ニンゲンのね)の名前に続いて、おいらの名前を書き入れてくれた。「とらも家族の一員だから」って。

だから、うちの表札には、4番目に「虎ノ介」って、ちゃんと書いてある。そう、おいらの本名は「藤原虎ノ介」っていうんだ。カッコイイだろ。

おいら、家猫になっても、店が大好きだったから、トラックの助手席に乗って出勤するようになったってわけさ。

母ちゃんの「とら、行くよ〜」って声を聞くと、おいらは玄関に向かう。声をかけられる前に玄関でスタンバイしてる時もある。

猛暑や大雨の日は出勤拒否することもあるけどな。「暑いから、とら、早引けしな」って、母ちゃんが家まで送ってくれる時もある。

おいらは、店にいるだけで、ちゃんと仕事してるのさ。おいらのファンのお客さんは多いからね。「とらちゃん、相変わらずいいオトコだね」って、撫でてくれて、買い物していってくれるんだ。

「男前だろ」って、父ちゃんはうれしそうにうなずいた後、決まってこう続けるんだ。

「俺の若い頃によく似てさ」

おいら、体がでっかいから、散歩中のワン公も、無礼のないようによけて通るよ。見回りに出かける時も、手をあげる代わりに尻尾をピンと立ててゆっくり通りを渡ると、車はみんな停まってくれるんだ。

8キロ半だった3年前を最後に体重は量ってない。だって、量りに乗り切らなくなっちゃったんだ。ちっちゃい子はよく、おいらを見て、「犬?」ってママに聞いてるよ。

そんなおいらでも、たったひとつだけ、怖くてたまらないものがあるんだ……。そいつは、不意にゴロゴロって空からやってくるから、おいらはビビりまくってトラックの下に身を隠す。

そこだけが、おいら、カッコイイ父ちゃんに似なかったんだな。
 

猫だって……。
佐竹茉莉子・著

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単行本(ソフトカバー)
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※このエピソードは、本が発行された2018年当時のものです

写真と文:佐竹茉莉子

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