この世界の片隅で、ネコ。EP:107『待ち猫こず』

その子に会えるのは、いつもの場所、いつもの時間、下町のとある空地。

午後5時。町内無線から「夕焼け小焼け」のメロディが鳴り始める。そこでサチコが待っている。

「ミャ―」

挨拶のように鳴く三毛猫。こちらも「ニャー」と鳴きまねして頭をなでる。

休みの日の午後5時になると、サチコに会いに行くのが習慣になっていた。

特に餌とかおやつをあげるという訳ではない。ただ、そこに行き遊んだり膝の上にサチコを乗せて30分くらい撫でるだけ。

夕焼けに赤く染まるサチコと僕。そういう関係だ。

まるで午後5時を告げる時計の様な、休日の終わりを知らせる日めくりの様な猫、サチコ。

サチコは恐らく捨て猫だ。これだけ人に慣れている猫はそうはいない。

その事を近所の人に聞いてみようと思っていたが何か憚られた。休日に会うだけ、その関係を壊したくなかったかもしれない。

ある日を境にサチコは姿を消した。まあ、そんなこともあるか。猫は気まぐれだもの。

そう思って翌週、空地を訪れると建築資材が置かれていた。

思い切って近くに住むおじいさんに事情を聞いてみた。

「ああ、空地のね。そこは○○さんの家があったんだけど…今度、誰かが新しく家を建てるみたいだよ」

3日前から工事が始まったらしい。騒がしいので何処かへ移動したのだろうか。そういうこともある…。

そしておじいさんは言った。

「そういえばあの猫、○○さんが飼ってた猫に似てるね」

もしかしたら。サチコは僕を待ってたのではなく、捨てた飼い主を待っていたのか。

その日から町内をくまなく探したがサチコは見つからない。

一度だけ、ある空き家の屋根上を逃げるように走り去ったのを見たのが最後だ。

やがて空地には新築の瀟洒な家が完成していた。

『夕やけこやけで 日が暮れて 山のお寺の 鐘がなる お手々つないで みなかえろ♪』

午後5時。町内無線の「夕焼け小焼け」のメロディ。

サチコを思い出す。

 

【横尾健太】Yokoo Kenta
Twitter 猫島警部 @nekojimakeibu

熊本市在住。1999年より細々と猫写真を撮り始めて今では太々と猫に浸かる。2016年熊本地震で被災、一時的に東京へ避難。その先で様々な人と猫に癒されお世話になる。「ネコまる大賞」「猫の手帖キャネット大賞」「よみうり写真大賞ファミリー部門季節賞」受賞。使用機材:通常はニコンのD800、旅先はペンタックスのKP、夏はニコンのnikon1 J5。でも機材にこだわりはありません。

プロとはそれで生活できる人だと思うので、アマです。なにもかも脇が甘い性格。写真におけるスタンスは皆無です。猫さまを見ると興奮して「あ、あ、あ」となり何も考えずにシャッター切ってます。「猫を使って金儲け」よりも「金を使って猫儲け」したいな。いろんな猫に出会いたいです。

-猫びより

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