古民家でお達者に暮らすみけちゃんは25歳

「みけちゃん、ほんまに可愛いなあ」

児童文学作家の村上しいこさんが、こよなく愛するみけちゃんは、25歳と4ヶ月。ある日するりと家の中に入り込み、猫を飼うのは初めての「かあちゃん」に「猫との暮らし方」をしっかり教えたつわものです。

文・写真 佐竹茉莉子

(3月12日発売『猫びより』2024年春号より)

 

三毛は意志が強い?

取材の2日前。みけちゃんの飼い主のしいこさんは、ちょっと慌てていた。

「あれ、みけちゃん、左の頬がぷっくり腫れとるよ。撮影してもらうのに、せっかくの美貌が悲しいなあ」

左の頬は、小さく膿んでは、しばらくたって自然に潰れてを繰り返していて、予防薬を飲ませているのだ。だが、みけちゃん、少しも慌てず。「自分で潰しときました」と、綺麗なすまし顔で取材に臨んでくれた。

「若い時から、胆力もあり、危機管理能力に長けた子なんです。家じゅうスタスタ歩き回って健康管理も怠らないので、長寿なんでしょうねえ」と、しいこさんも脱帽する。

「みけちゃんは、ある日勝手に家に入り込んで、出て行かなかった子なんです。若い時から自分の意志をしっかり持った子でした。三毛飼いさんたちによると、三毛は自分の意志が強く、母性も強い子が多いとか」

ストーブの前で、うとうと

 

入り込んできた猫

みけちゃんは、しいこさんが初めて一緒に暮らす猫だった。それ以前は、夫の義典さんと小料理屋を始めた頃に毎日連れ立って来店する野良のトラ猫3兄弟とのちょっとした交流があった程度だ。

23年前の秋、ふたりが当時暮らしていたアパートの6階までみけちゃんは訪ねてきたのだ。
「アパートの前に猫がおるな、くらいの認識だったんです。それが、ある日階段を上ってきて、チェーンロックだけしていたドアの隙間から入り込んできて」

そのまま出て行かない猫だったが、お尻のあたりにけがをしているのに気づいたしいこさん。生まれて初めての獣医さんへ。

「左右同じところをケガしてるから、犬に真上からガブリと咬まれたんだな」との診断で、1歳くらいとのことだった。近所の子供に聞けば「引っ越しで置いてかれた子」らしい。

もう子猫ではないので、譲渡先探しは難しそうである。「それなら、うちで面倒見るか」ということになり、猫の前では「とうちゃん」「かあちゃん」と呼び合うようになった。

ときにおしゃれも。チェックワンピもよく似合う

 

「猫との暮らし」を指南

「みけ」と名付けたこの猫は、もの静かだった。しばらくたって、乾麺数本を転がしたりのひとり遊びを始めた時、「猫って、こうやって遊ぶんだ」と、しいこさんは知った。

その後少しずつ「猫との暮らし方」を、みけちゃんは、しいこさんに伝授していく。「昼間はベランダでひなたぼっこしてますから、お留守番OKです」「ご飯だけは置いといてね」「ちょいとお膝で甘えさせてください」「オモチャは市販のものではなく、本物の猫じゃらしで」などなど。つまり、猫の意志を尊重して、心地よい距離を保つ、猫からすれば「ストレスのない理想的な人間との暮らし」であった。

とうちゃんもかあちゃんも、みけちゃんの指南通りにしたのが、今のみけちゃんのお達者につながっているのは間違いないだろう。

三重県獣医師会からのご長寿表彰(25歳になる直前)

 

弟が次々やってきた

アパートから一軒家に引っ越して、みけちゃん13歳の時に、灰色縞柄の「ピース」がやってきた。近くの空き地の穴に背中から落ちて、両手足をバタバタさせて鳴いていた子猫だ。

「みけちゃんは、最初は子猫から逃げ回ってましたが、彼女の意志を尊重して、自分から新入りを受け入れていくのを待ちました」と、しいこさん。やがて、ピースくんのお世話をするようになり、「ボクの大好きな頼もしい姉ちゃん」になってくれた。

その1年後、よそで保護されたサバ白の「パレオ」も迎え、みけちゃんはふたりの弟に慕われるようになった。その頃のみけちゃんは、かなりのムチムチボディだったそうな。

いつの間にか、弟パレオに背丈を追い越されていた10年前(写真・村上しいこ)

 

快適古民家暮らし

ここ三重県松阪市の古民家暮らしは、3年になる。猫たちがくつろげる日当たりや間取りなどを最優先にして選んだ、江戸後期築の家だ。もちろん、みけちゃんたちはこの家が大いに気に入っている。

みけちゃんは、ひと晩じゅうかあちゃんの手枕で寝るのだが、起きると、弟たちと並んでカリカリとウェットの朝ごはんを食べる。歯も全部揃っているので、食べっぷりは弟たちに負けない。それから、ストーブの前の大きなクッションに前脚を突っ込み、考え考え体勢を整えてからくつろぐ。

しばらくすると、かあちゃんが「みけちゃん、お尻拭き拭きしよか」と声をかけ、ホットタオルでやさしく拭いてくれる。そのあと、ブラッシングもしてくれる。2年ほど前から膀胱の機能が悪くなり、オムツをしているのだが、かあちゃんは様子を見ながらオムツを外してくれている。

各部屋を何度も巡回するのも健康のもと

あとはみけちゃんの好きなように一日が回っていく。通りに面した日当たりのいい部屋で過ごしたり、部屋や廊下をスタスタ巡回したり、こたつの中で弟たちをそばに侍らせて眠ったり。

とうちゃんもかあちゃんも、しょっちゅう話しかける。「みけちゃん、おなかすいたんか、ほなカツオ節でも食べるか」「みけちゃん、ちょっとオネムの時間やな。ご飯食べたしな」「みけちゃん、インスタでみんなに可愛いて言われとるよ、うれしいなあ」

家の中は、危険な箇所がないようにしてあるが、ちょっとした段差はそのままだ。みけちゃんの危機管理能力を衰えさせることなく、手出しも極力しない。椅子からの2ステップで机にもぴょこんと飛び乗るみけちゃんだ。

きれいなお水は、何ヶ所かに常設

 

穏やかにゆっくり過ごしてほしい

5〜6年前、みけちゃんは初めててんかんの発作を起こした。今は治まっているのだが、発作時に「死んでしまうかもしれへん」と思った時の胸をえぐる悲しみを題材にして書いた絵本が『ねこなんていなきゃよかった』(童心社 ささめやゆき・絵)である。最後に、亡くした猫へかけることば「ももちゃんとあえてよかった」は、みけちゃんへのいとしさが詰まっている。

みけちゃんのいのちへの賛歌を発信するしいこさんのインスタグラムは人気を呼び、みけちゃんファンが急増、4月には『25歳のみけちゃん』(主婦の友社)というフォトエッセイが発売される。

「これからもみけちゃんには、弟たちと共に一日一日をのんびりゆっくり過ごしてほしい。それだけです」と、とうちゃんかあちゃんは声をそろえる。

継母からの虐待や学校でのいじめに「死のう」とまで思った子供時代のしいこさん。親に抱かれたことは、一度もなかったという。そんな体験を講演でも語り、「今はつらくとも、必ず自分の選んだ人生を生きられる日が来る」と力強く発信し続ける。

みけちゃんを大事に大事に抱くしいこさんの手も、語っていた。

「人生も猫生も、年いけばいくほど、存分に楽しまな。なあ、みけちゃん」と。

みけちゃんが大好きなパレオ。「近すぎ」とクールなみけちゃん。人見知りピースくんはこたつの中から出てこない

 

25歳のみけちゃん
ご長寿猫の気ままな古民家暮らしエッセイ
(主婦の友社)

しいこさんの軽妙な筆致で、みけちゃんとの出会いから24年間の数々のエピソードや、とうちゃん、かあちゃん、弟猫2匹との日常がつづられます。みけちゃんの写真も満載で、なんでもない一日が愛おしく、ありがたいとしみじみ感動する一冊。

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-猫びより