「シンボル」
しゃちほこのような猫がいた。
というかしゃちほこそのもの。
あるお宅の玄関の上に鎮座して…何をしているんだろう。
監視かな。
まるでそれが使命とでも言っているかの如く、今日も座っている。休憩時間には陽当たりのいい屋根に移動して友達と遊んでいる。だいたい玄関か屋根の上にいるので地上に降りる事が少ない。
彼は身だしなみに厳しい。細目に毛繕いをするので毛ヅヤがとても良い。ちょっと過剰なぐらいの清潔好き。なんというか、ホテルのベルボーイを思い起こさせる。
色々興味がわいてこのお宅のおばさんに聞いてみたら、半ば冗談交じりにこう返ってきた。
「あれはこのうちで自分が一番偉いと思っているんだ」
笑いながらそう答えてくれた。ああ、もしかしたら世帯主だとでも思っているのだろうか。
しかしこうも思う。
自分が一番偉いと思う以上に、自分がこのうちの代表だと思っているのではないか。だから玄関の上でベルボーイのように振舞い、常に見られているからと身だしなみにこだわっているのだ。
シンボルとして、皆の模範となるべく他人様に恥ずかしくないようにしているのだ。
そう考えて改めて玄関上に鎮座する猫のしゃちほこを見ると、なにか少しだけ神々しい。
しゃちほこは火事の際に水を吹き出し鎮火させる守り神だという。もしもこのお宅が火事に見舞われたらどうするのだろう、なにしろ一番偉くて守り神なのだ。
…たぶん真っ先に逃げるんだろうなぁ。
text&photo/Kenta Yokoo