寄りそう猫「家族のように」

家族のように和気あいあいと暮らす老人ホーム。そこには、通所猫も、入所猫もいて……。

ここは、北関東にある、春の野に咲く小さな花の名の老人ホーム。デイサービスやグループホーム、高齢者専用マンションも兼ね備えている。

もうすぐお昼。おや、前庭から、デイサービス利用者らしき姿が。「お昼ご飯、ください」丸々したサバ白さんだ。

その後ろからも、あっちの塀の上からも、裏口からも、次々と訪問する猫たち。微妙な時間差利用のようだ。みんな耳カットが施されている。

「通所猫は何匹もいます。うちで不妊去勢手術をして、面倒を見ている子たちです」

施設管理者の竜子さんはさばさばした笑顔を見せて言う。

「施設内にはスタッフ猫も3匹います。最近、犬も1匹加わりました」

スタッフ猫のひとり、白猫のデップくんは、5年前に現れた元ノラだ。3年前にケガをしていたのを施設内で手当てをしてもらったあと、療養してそのまま室内猫に。通所から、ロングステイ、そしてまんまと入所してしまった猫である。

その恩義を感じているのか、毎日の施設内点検や利用者との親睦に余念がない。

ちなみに、デップという名前の由来は、けっしてジョニー・デップではなく、本名「でっぷりん」の愛称だとか。確かに、3段腹が「しあわせ太り」を物語っている。

お米番に励むキジ白の雌猫ぺーちゃんは、3年前の夏、子猫の時にスタッフに保護された。家猫となった今も、飼い主の出番には一緒に出勤して、夜勤もこなしている。

ちょっとシャイなデップくんに比べ、ぺーちゃんは誰にでもフレンドリー。認知症の入所者さんの話し相手も、そつなくこなす。

スタッフとして心得るべきはちゃんと心得ていて、入所者の食事タイムには決して卓上に上がらない。

やってきて半年のグレコちゃんは、片目がつぶれ、脱水状態でホームにたどり着いた、推定年齢10歳以上の雌猫だ。治療で一命をとりとめたあと、新スタッフに加わった。3匹のチームワークはまあまあだ。

施設内の片隅には猫たちがくつろぐためのサロンがあり、今は使っていないお風呂場が休憩室となっている。

人も猫も何とも居心地のいい、このホーム。竜子さんをはじめ、スタッフそろって動物好きという。

理事長や社長の了解を得て、近隣の外猫たちの手術やお世話を続けてきた。捨てられていた仔猫たちの保護は幾度も。衰弱しきった仔猫たちを育て、譲渡先を見つけたこともある。手術代やご飯代は、有志で出し合う。

「いつでも困った猫を助けられるよう、捕獲機や大小ケージも常備してあります。そんな老人ホームも珍しいでしょ」と、竜子さんは笑う。

「猫なんて大嫌い」と言っていた利用者の方までもが、今ではこんなことを。「猫嫌いなんて一度も言わねーよー。猫、可愛かっぺよー」

最近、スタッフ犬も入ってきた。チコちゃんは、8歳の雌のトイプードル。日中はサロンで過ごし、夜は、認知症になった飼い主のおばあちゃんの部屋で寝る。チコちゃんは、若い男性スタッフが大好きだから、ここでの毎日が楽しくてたまらないようだ。

犬も猫も、入居費なんて払わないけれど、大きなお返しをしている。

そう、彼らがそこにいるだけで、利用者もスタッフも、気持ちはゆったりほんわか。笑顔も会話も増える。

ひとつ屋根の下、寄りそい合って大家族。一緒にのんびり年をとっていく。

あくせくしない。猫とお年寄りの生活リズムは合っているのかも。

 

寄りそう猫
佐竹茉莉子・著

定価:1320円(税込)
単行本(ソフトカバー)
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※この物語は、2019年発行当時のものです。

写真と文:佐竹茉莉子

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