この世界の片隅で、ネコ。EP:7「幸せは見える」

「幸せは見える」

母は春に元気な赤ちゃんを3匹産んだ。
皆、母に似てかわいい。
初のお産・子育てだから苦労もしたのだろう。
印象に残っているのは、とにかく赤ちゃんを舐めては毛繕い、舐めては毛繕いしてたなぁ。
母の愛情がたっぷり注がれ、暫くして子育ても一段落した。

古い町の長屋に暮らす彼女はいつも窓辺でウトウトしてる。
どんな夢を見ているのだろう。
子供の事だろうか、ご飯の事だろうか。
たまにピクピクしてる。
どちらにせよ幸せそうだ。

たまにお向かいのお宅の木に登る。

高いところが好きみたいだ。
遊び盛りの子供たちも真似し、みんな木登り名人になった。
子供は母の真似をしたがるものだ。
だから家族みんなで窓辺でウトウト。
大好きな母の夢でも見ているのか。
みんなでピクピクしてる姿はとても可笑しくもあり幸せそうだ。

とにかく忙しい母。
長屋の主人に聞けば夜は大運動会だそうだ。
子育て中の母に休息はない。
でも母親は静かに見守っていて、それはそれは幸せそうな顔をしていると聞いた。

そんな母の努力の結晶、子供たち3匹はそれぞれ貰われていった。
やっぱりそれぞれのお家の窓際でウトウトしてピクピクして、木登りするんだろうな。

本当に普通の家族。
猫の幸せを集めたような団らん。
飼い主さんは目を細め、僕の撮った写真を眺めて呟いた。

「ちょっとは見えるみたいだけどね」

母は目が不自由でほとんど見えないそうだ。
僕は驚いた。
けれど。
けれどそれがなんだというのだろう。
とにかく幸せそうな家族だった。
それだけなんだ。

…だけどどうして木登りが好きになったんだろう。
今度、機会があったら聞いてみよう。

text&photo/Kenta Yokoo

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