ネコは身近な動物で、ヒトの社会の中で暮らしています。そのため野生動物とは異なり周囲の環境も含め、ヒトがいてネコは生きていけると思うのです。ヒトとヒトの間に繋がるいのち。今を生きる友達として向き合いながら、街の中にネコのいる風景が時代は変わってもあり続けてほしいと願うばかりです。
写真・文・イラスト平井佑之介
南北に延びる島には南と北にそれぞれ港があり、潮風対策にコールタールを塗布した木造住宅が軒を連ねる。島のちょうど中央には今は廃校になった小学校がある。
学校に向かう道からは、どこまでも遠くに見える水平線。子どもたちはこの道を徒歩で通ったのだろう。木造一階建ての廊下には、音楽室や図書室など見慣れた表札が並び、建物を支える柱にはいつか付いた跡が刻まれている。
校舎の教室は今、島で唯一の喫茶店。地元の方や観光客の集まる憩いの場所になった。ヒトの気配にネコがやってきて話題をさらう。ネコ談義の中心には特に人懐こい兄弟の〝デコ〟と〝クー〟がいて、ヒトの肩によじ登ったり、膝の上で眠りこける自由な姿が目に映る。ひと休みのはずが、誰もがついつい長居してしまうネコの魔力。
▲ 図工室で見たような木製の椅子で遊ぶ“デコ”と友達
満足した2匹は廊下を舞台に「ネコリンピック」〝午前の部〟を始めた。〝デコ〟は友達を見つけては遊びをしかける。ふと僕の小学生時代を振り返る。学校の教室の廊下や階段には「走るな!」の張り紙。給食のビンの牛乳を飲み干したら1分でも長く友達と遊びたくて、階段を何段も飛ばして校庭に出たものだ。
〝デコ〟と〝クー〟は子ネコのように、目の前のすべてに夢中になる。昼になると、カリカリごはんでお腹を満たしうたた寝を始めた。「ネコリンピック」〝午後の部〟の為に、海風に当たりながら、うつらうつらとしばしの休息。
背中を丸めて伸びをした寝起きの〝クー〟が、おもむろに校舎の柱で爪を研ぐ。いつかの跡にまたひとつ、思い出が刻まれる。
▲廊下の柱で爪を研ぐ“クー”。新しい跡が付いていた
2匹は校舎を飛び出して、周りの世界に目を丸くする。〝デコ〟が砂浜で飛び回る。辺りを見渡せば、他にもネコたちが自然の中を駆けまわっている。花を飛び越して、バッタを追いかけ、楽しいことを見つけるたびにピンク色の肉球に土がつく。そこに誰かがいれば歓声が上がる。自然との付き合い方も遊びを通して学んでいるようだ。
▲砂の上でお尻をフリフリ。ここぞとばかりに盗塁を決める“デコ”
▲“デコ”は砂遊びに夢中
ヒトとネコと自然の心地よい距離を感じたこの場所にも、安心の日々が一日も早く戻るよう祈る。みんなが集う学び舎で未来が育まれてゆく。
▲扉を補強する様子を見て、手伝いに来た”デコ”
▲花の上を優しく高跳びする“クー”
Hirai Yunosuke
いきもの写真家。1988年生まれ。日経ナショナルジオグラフィック写真賞2015優秀賞。島や商店街で暮らす猫から、イルカやヘラジカなどの野生動物も撮影。『Nikon D800 ネコの撮り方』電子書籍出版。
Instagram:yunosuke_hirai
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