ネコのとなりに[第2回]さくらネコ

ネコは身近な動物で、ヒトの社会の中で暮らしています。そのため野生動物とは異なり周囲の環境も含め、ヒトがいてネコは生きていけると思うのです。ヒトとヒトの間に繋がるいのち。今を生きる友達として向き合いながら、街の中にネコのいる風景が時代は変わってもあり続けてほしいと願うばかりです。

写真・文・イラスト平井佑之介


▲出逢った頃はまだ“まつ”は生後半年ほどで好奇心旺盛

街を歩くとネコに出逢う。よく通る道にクロネコが1匹。ヒトやイヌが横を通ると端に避けてじっと見つめている。何度も会ううちに顔見知りのようになり気にかけていると、耳にさくらの花びらのような切れ込みが入っていることに気付いた。

ケンカをしたのだろうか?

意識してみると、同じ耳を持つネコはあちこちにいた。

ある日、いつものようにクロネコを見ていると、「まつ!」と呼んだヒトの足元へ尻尾をピンと上げ駆け寄って行った。どこからともなくクロブチのネコもやってきて、「たけちゃんもおいで」と呼ばれると2匹は背伸びをするように足元で甘え始めた。

「にゃ~」「は~い」「にゃ~にゃ~」「どうぞ」。


▲ごはんの時間。“まつ” “たけ”兄弟そろって、同じものを同じだけ

器に盛られたキャットフードを、2匹は夢中になって食べ始めた。

思わず「毎日来られているのですか?」

と聞くと「天気が悪い時もみんなお腹が空いて待っているからね」と笑顔で答えてくれた。この地域に住む飼い主のいないネコをみんなでお世話をしているという。不妊手術をした目印がさくら耳で、地域ネコやさくらネコとも呼ばれているそうだ。

〝まつ〟はもともと捨てネコの3兄弟で、「他にもいるネコたちのお世話をしていたら、兄弟ネコと共に急に現れたので捨てられたのでは……」と話す。

1匹は引き取られ、残った〝まつ〟と兄弟の〝たけ〟はさくらネコとして暮らしている。

地域にはネコが苦手な方も住んでいるため共に暮らせる環境づくりが不可欠だ。不衛生な置き餌が問題になり、反対にネコが住みにくくなる可能性もある。〝まつ〟たちのゴハンは用意した器に入れて、食べ残しも回収し管理されている。

「目の前のネコが食べ終わるまで」と、2匹が怪我をしていないか、食欲はあるか、元気かどうかと優しいまなざしで見つめる。

食事を終え、撫でてもらう至福のひと時。

「また明日ね」

と立ち去るヒトに〝まつ〟たちは後姿を追うように駆けていき、次第に歩幅は狭くなった。尻尾をピンと上げるのはゴハンの喜びももちろんあるのだろうけれど、ネコは一緒にいられる時間の大切さをきっと知っているんだよね?


▲何度も通うと少しだけ心を開いてくれた、だいすけ


▲親子だろうか? ひと回り大きさの違うネコが体を寄せ合う


▲ネコの穏やかな暮らしを守るため、居場所はひみつ


▲F1日の終わりに待ち焦がれてぶつかるようにおでこを合わせるネコとヒト

ネコを撮影中、通りすがりにおじさんが「身近に生き物がいてもいいじゃない?」という。僕が子どもの頃に見ていたネコのいる風景。穏やかに街を歩く姿に日々心安らいだ記憶がある。おじさんの
ようなシンプルな気持ちで、ネコとヒトが仲良く暮らせたらいい。

Yunosuke Hirai
いきもの写真家。1988年生まれ。日経ナショナルジオグラフィック写真賞2015優秀賞。島や商店街で暮らすネコから、イルカやヘラジカなどの野生動物も撮影。ヒトと動物や自然が仲良く暮らせるきっかけになりたい。「今を生きる」いきものの姿を伝えたい。『NikonD800ネコの撮り方』電子書籍出版

Instagram:yunosuke_hirai
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