「猫たちが仲良くなれなかったら、結婚はなし」そんな同意のもとに、ふたりの猫連れ同居は始まった。
知り合った当時、祐一朗さんと知子さんは、都心にある同じ会社の同じグループで働いていた。仕事の話以外はしたことがなかったふたりの仲は、4年前に急接近する。
きっかけは猫だった。
保護されたばかりの子猫をもらい受けた知子さんが、猫飼いの先輩である祐一朗さんに飼い方の相談に乗ってもらったのだ。
知子さんが飼い始めたのは、おでこと尻尾が黒く、あごと尻尾にちょこんと茶色のある、アキラちゃん。珍しいと言われる「雄の三毛猫」もどきである。
祐一朗さんは、2匹の保護猫と暮らしていた。
6年前のこと。捨てられていた子猫を拾った友人から「もらってくれないか」と写メールが来た。「いいよ」と返事をしてほどなく、またもや同じ友人から写メールが。
「別の場所で、また子猫を拾った。2匹で仲良くしているので、2匹もらってくれないか」
やさしい祐一朗さんは、またもや「いいよ」と返答したのだった。
夏空の下、2匹でやってきたので、黒白の雄猫はなっちゃん、茶白の雄猫はくうちゃんという名をつけてやった。
知子さんちのアキラちゃんはひとりっ子として、祐一朗さんちのなっちゃんとくうちゃんは仲良し兄弟として、のびのび育つ。
そんな猫好き同士、猫話をするうちに、気持ちよく心が寄りそっていく。
付き合い始めて1年。ふたりは結婚を前提に一緒に暮らすことにした。ただし、自分たちのしあわせよりも、大切にしたいことがあった。それは、それぞれの猫のしあわせである。
同居は、飼い主込みのトライアングルのようなもの。「猫たちが仲良くなれなかったら、結婚はなし」と取り決めたのだった。
3匹ともおとなの雄猫同士だから、簡単にはいかないはずだ。しばらくは隔離して様子を見ることになろうかと、大きなケージハウスも用意した。
ところが……。ケージハウスはまったく必要なかったのである。
「ぶっつけ本番で顔合わせさせてみたら、シャーもフーもなく、その日のうちに意気投合しちゃったんです」と、祐一朗さん。
「なんとかなるだろうな、とは思っていたけど、あっという間で、『え?』って感じでした」と、知子さん。
その日から、3匹は、最初から3兄弟として生まれてきたかのように仲良しに。
そして、ふたりと3匹は正式な家族になった。新居は、猫の気持ちになって知子さんが設計した。
キャットタワーなしでも、どこにでも上がれる棚や家具の配置。
どこでも通れるよう、部屋と部屋には間仕切りがない。洗面室にも、大きな猫ドアがある。
通りに面した外が見える大きな窓。ふたりの帰宅時間には、2階の窓から仲良く外をウォッチングしている3匹が、玄関に駆け下りて、揃ってお出迎えしてくれる。
もともと仲の良いなっちゃんとくうちゃんがくっついて寝ていると、アキラちゃんは、「ボクも入れて」と、真ん中に割り込んで行き、猫団子に。
知子さんは言う。「どの子もみんな同じに可愛いけれど、やっぱりアキラとは、とりわけ絆が深いというか……。毎晩、アキラは必ず私の左腕に寄りそって寝るんです。乳がんで手術した左側を、アキラがそっと守ってくれてる気がします」
そんなアキラちゃん、知子さんがいないときは、3兄弟でいっせいに祐一朗さんに甘えるそうだ。
「3匹いっせいは、すごくうれしいです」と、祐一朗さんはおおらかに笑った。
※この物語は、2019年発行当時のものです。
写真と文:佐竹茉莉子