英一蝶(はなぶさいっちょう)は江戸時代の元禄年間に活躍した絵師。アカデミックな狩野派に師事しながらも破門され、第五代将軍・徳川綱吉による「生類憐みの令」を皮肉った流言に関わった疑いで島流しにされるという異色の経歴の持ち主です。
今年2024年は没後300年。その節目に際し、東京・六本木のサントリー美術館で過去最大規模の回顧展が開催されており、驚くほど見事な三毛猫の絵が展示されています。
その絵はアルバム形式のように36図をまとめたものの中の一つ。日本の伝統的な絵画は線が命で、達人ともなれば一本の線に膨大な情報量を込めることができます。一蝶もまさにそんな達人だったようです。背中の曲線、やや骨張った関節、途中で曲がったシッポの感触、毛並み……。シンプルなのに雄弁な線のおかげで、猫の触り心地をこの手に感じたかのような錯覚に陥りました。
絵具の引き方も見事で、こちらは毛色ばかりか体の凹凸まで繊細に表現されています。画面右下の赤い紐にいたっては、結び方ばかりか、どれだけ力を入れて引けばほどけるかわかるよう。
一蝶の絵は徹頭徹尾、どんな細かいところも具体的です。それは猫以外も同じで、ひらひらと舞う布にどの方向からどんな風圧がかかっているのか、踊っている人や、アクロバティックな姿勢の人が、どこに重心を置いてどこに力を入れているのか、体感的に理解できるのです。
墨で子犬を描けば、驚くほど少ない手数であの愛らしいふわふわコロコロ感を表現。馬を描けば筋肉の動きから重さまで伝わってきそう。一体どんな魔法を使えば、こんなふうに手触りや重さを目で感じられるように描けるのか! お目当ては猫でしたが、全ての絵が驚くほどすばらしく、神わざを見るような思いがしました。
余韻に浸りながらミュージアムショップを眺めているとまた猫を発見! なんと和三盆の猫です。これまた猫好きのツボを心得た型ばかりです。あまたの名品・名宝を収蔵するサントリー美術館。展覧会場の外まで楽しかったです。
没後300年記念 英一蝶
―風流才子、浮き世を写す―
サントリー美術館
2024年9月18日(水)~11月10日(日)開館時間:10時~18時
※火曜休館(11/5は開館)※金曜、11/9(土)は20時まで
https://www.suntory.co.jp/sma/
※ ここで紹介した三毛猫の絵などは10月14日まで。他も展示替えあり。詳しくは美術館および展覧会HPをご確認ください。