写真・文 堀晶代
昨年11月、フランスの議会上院は、動物の取り扱いに関する法律の改正案を可決した。なかでも注目を集めたのが、「ペットショップなどで、猫や犬の展示販売を禁止する」という項目。これは2024年1月から施行され、日本でもニュースとなった。
西欧では「ペット放棄大国」という不名誉な呼ばれ方をするフランス。理由は長期のバカンスを取るために、ペットを手放す人が後を絶たないからだ。フランスの動物保護団体によると、毎年捨てられる猫や犬の総数は約10万匹を超える。とくに数週間単位で休暇を取る夏に集中する。
店頭でついつい「抱っこ商法」に乗せられ、命を衝動買いしてしまうことは、古今東西変わらない。フランスにおいては、コロナ禍で3回もの厳しいロックダウンを経る中、ペットも含め、あらゆる売買が、インターネットを通じ便利になった。
改正案の可決前に示されたデータによると、80%ものペットの売買がインターネット経由である。とくに「フランス版メルカリ」である「ルボンコワン」は伸長。コロナ禍で自粛し、癒やしを求めた人たちはスマホからの「ポチ!」で、容易に一緒に暮らす命を選べる。散歩などの必要がない猫を飼う人は増えた。そこに売買条件はあっても、命の無事を追跡する手段はない。
しかし今や、EU圏でのバカンスの行動規制がなくなったフランスでは、リバウンドのように「飼いやすい猫」が、「捨てやすいペット」になっている。
フランスの「園芸とペット連盟」によると、連盟に加盟し、展示販売をする店舗は国内で約2千店。1990年代後半から政府の規制に従い、今日ではペットショップで販売する猫や犬の総数は年間4千匹に留まる。もし販売された猫や犬が毎年そのまま放棄されたとしても、放棄される総数の4%以下だと主張。
実際に「見える」店舗であるペットショップは、販売する動物たちへの配慮、つまり広さや高さ、空調、店頭にいる時間以外では中庭に放したり(フランスの建物は敷地内に中庭があることが多い)、多額の投資をして存続させようと努力してきた。また人と猫や犬が触れあう時間も、「動物が人に慣れる機会」となるよう工夫している。
時世に応じて真摯にペット事業に関わってきた関係者の約5千人が、職を失うことになる。
もちろん今回の改正案は、インターネット売買への厳格化も定めているが、ネットという性格上、抜け道をふさぎきれないという指摘がある。保護組織を名乗って、ワクチン代をかすめるケースもある。
筆者が初めてパリに足を運んだ30年近く前。日曜日のシテ島では「鳥市」が観光名所だった。 今回の改正案は、「動物を見世物にしないこと」に徹していると感じている。ただ「見せること」と「隠すこと」の違いにおいて、日の目を見ていない猫たちがいる。 猫の幸せのために、何が必要なのだろう。一緒に暮らそうと決めたとき、「暮らそうと思う側」「譲ろうと思う側」のハードルの高低や意識の差を示した一例が、今回のフランスの可決にある。
Hori Akiyo
日仏を往復するワイン・ライター。著書に『リアルワインガイド ブルゴーニュ』(集英社インターナショナル)。大阪でともに暮らす2匹の猫の年齢差は14歳。年齢にあったお世話に悩む日々。