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‭気候が変われば見た目も変わる!? 北の猫と南の猫の違い

北国の寒冷な気候と南国の温暖な気候は、猫たちの体つきにも影響するのでしょうか? 全国各地の猫を訪ね歩き、動物園でさまざまな地域からやってきた動物を見てきた著者が語ります。

文・写真 南幅俊輔

多様な日本の気候

日本は南北にとても細長い国。北は北海道から南は沖縄まで、面積が小さいわりには冷帯から温帯、亜熱帯まで備えています。島国であることから暖流寒流の影響を受け、さらに山岳地帯からの風を受け、大いに気候に変化をもたらしています。そんなことから外で暮らす猫たちにも北と南で外見に違いが現れてもおかしくないはずと思っていましたが、残念ながら私が出会えた北の猫(北海道)と南の猫(沖縄)の外猫には大きな違いは見られませんでした。

これは時期が悪かったとしかいいようがありません。北海道は夏にだけ、沖縄は冬にだけしか訪れていないからです。しかし実際に違いはありそうです。その証拠に本州ではありますが、出会った同じ個体の猫に、夏と冬での違いがはっきりと現れていました。ご想像通り、冬はふっくらフサフサ。夏はスリムにスッキリという変化です。年間の寒暖差が大きい日本のことなので、外で暮らす外猫たちへの影響が分かりやすく現れたのです。きっと北海道は冬に、沖縄は夏にそれぞれもう一度訪れたなら、猫たちの違いがはっきりわかりそうです。

 

公園猫たち

10年程前のことですが、よく訪れた公園には多くの地域猫たちが暮らしていました。最初に訪れたのは冬。めったに雪が降らない温暖な地域ですが日が暮れるとさすがに寒さが身にしみます。その場所には個性的なサビ猫はじめキジ猫などの和猫(ミックス猫)がいるのですが、中には長毛の洋猫のようにふわふわした毛の猫もいて、とても温かそうな印象です。

半年後、今度はうだるような夏の日に訪れました。冬に見かけたサビ猫に再会できたのですが、どうも様子がおかしい。冬時は確かに大人だったのに目の前の猫はまるで子猫のように小柄です。それからもう1匹、印象に残った温かそうなふわふわ長毛猫も発見できました。発見場所はパソコン上でした。実は後になって写真を見返し初めて同じ猫と気づきました。冬の写真と並べてもかなり違いがあります。これでは現地で気づかないわけです。

猫には換毛があって冬毛と夏毛に替わることは知っていましたが、この時になってようやく意識することができました。私たちが衣替えをするように猫たちも冬はふわふわな毛を手に入れ、夏は薄着に衣替えるのですね。気温の変化に適応しなければならない外猫は、いっそう劇的に変化することでしょう。

ただ、体が一回り小さくなるわけですから、毛の質にもかなりの差がありそうです。

サビ猫

冬毛

夏毛

翌年冬

長毛猫

冬毛

夏毛

 

被毛のしくみ

そこで、猫の被毛について少し調べてみました。猫は被毛が1重構造になっている「シングルコート」と2重構造になっている「ダブルコート」の2タイプがあります。長めで硬く張りのある毛質のオーバーコートと、その下側には短くて柔らかいアンダーコートが生えています。夏前の換毛期には防寒に不要なアンダーコートが抜け落ち、夏の暑さに対応します。冬前の換毛期は夏仕様の密度の少ない毛が抜け落ち、ふわふわな冬仕様の毛に生え替わります。日本の寒暖差に対応できるように和猫のほとんどはこの2重構造のダブルコート。シングルコートはシャムやシンガプーラなど1年を通して暖かな原産国の猫に多くみられるようです。短毛種が多いのも特徴ですが、メインクーンなど一部の長毛種はシングルコートです。

公園の和猫たちの変化は当然大きかったのですが、長毛の洋猫の血を引いている猫はもっと大きく変化しているように見えました。それは多分、冬に目撃したふわふわな長い毛足の分、熱を逃がさない空気の層ができていて体全体が大きく膨らんで見えていたからでしょう。もちろん短毛の猫もダブルコートの量にプラス被毛が空気をため込んでいて、ぽっちゃりさんです。ただしそれは見た目だけ。触ってみても分かりますが体はけっして太くはありません。

体格差にも影響

寒暖差は被毛に影響を与えたようですが、それ以外に体格差にも現れると思われます。哺乳類や鳥類などの体温を一定に保てる恒温動物全般、北の寒い場所に住んでいる個体ほど体が大きく、体重も重くなる傾向があるそうです。これは19世紀ドイツの生物学者ベルクマンが提唱した「ベルクマンの法則」というもので、日本国内に生息するニホンジカを例にとると屋久島では肩高(肩までの高さ)は65センチ、九州で80センチ、本州で85センチ、北海道で1メートルと法則どおり。気温が下がるにつれ体が大きくなっています。

この法則の仕組みは恒温動物がつくりだす体内熱量が関係しています。体が大きく重いほど作りだされる熱量は大きくなります。その割に体重あたりの表面積は狭くなるので、熱の放出量が減ります。それによって寒さを防ぐことができるのです。

また耳や尾、四肢などの突出部位も寒暖による大きさの差が現れるという説があります。こちらはアメリカの動物学者アレンが提唱した「アレンの法則」といいます。

進化の果てに

「ベルクマンの法則」に基づいた体格、それに被毛の違いが分かりやすい例はノルウェー原産のノルウェージャンフォレストキャットとロシア原産のサイベリアンに見ることができます。ノ進化の果てにルウェージャンフォレストキャットの体重は約3.5~6kg、サイベリアンは約4.5~12kg。比較として家猫の体重は4~5kgなので、両者とも大型の猫です。特にサイベリアンは他の猫種にはないトリプルコート(三重構造)を持っていると言われています。マイナス50度の極寒に耐えうる高密度な被毛を手に入れ地域に適合してきました。これは極端な例ですが、日本の外猫も環境に適応しようと体を変化させていそうです。

動物の進化の多様性は環境に適合することから広がったといわれています。はるか4億年前の海から地上へ進出した私たちの祖先は、さまざまな障害を乗り越え変化を繰り返してきました。そのうち私たち哺乳類は体温を保つために被毛や体格のようにいくつかの術を手に入れ進化してきました。

忘れてはいけないのが地球上の全ての生物が同じ祖先から発生したということ。進化というプロセスを経て多種多様な生き物へと分かれて存在しています。猫に心ひかれるのも、遠い昔同じ生き物だった記憶かもしれませんね。


参考文献
サラ・ブラウン 著 角敦子 訳 『ネコの博物図鑑』(原書房) 三浦慎悟 監修 『徹底図解 動物の世界』(新星出版社) 「寒いところにすむ動物はなぜ大きい?」 (asahi.com「ののちゃんのDO科学」より)

Minamihaba Shunsuke
猫&動物園写真家、グラフィックデザイナー。2009年田代島で猫の撮影を開始。現在は看板猫のほか、海外の猫の取材、その他さまざまな動物たちの撮影も行っている。また雑誌デザインの経験を活かし猫や動物関連の書籍やムック本を企画編集。著書に『ソトネコJAPAN』(洋泉社)、『ワル猫カレンダー』(マガジン・マガジン)、『美しすぎるネコ科図鑑』(小学館)。企画・撮影・デザインでは『ねこ検定』『ハシビロコウのすべて』『ゴリラのすべて』(廣済堂出版)がある。近著は『踊るハシビロコウ』(ライブ・パブリッシング)。webでは読売新聞オンライン・大手小町「いろいろな猫の生き方」、マキノ出版「猫を訪ねてにゃん千里」で写真コラムを連載。

-猫びより

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