「とんち」
熊本地震の直後、4月29日に半壊したお寺で産まれた6匹の子猫。
5匹は貰われていき1匹はお寺の子になった。
名前はレイ。
名前の由来は特にないらしく「6匹もいたから適当につけただけだよ」だそうだ。
町は当時、壊滅状態だった。
そんななか、すくすくと育つ子猫。
希望の種だった。
1年が経ち随分立派な男の子になったレイちゃん。
町も復興に向けて薄皮を剥ぐように瓦礫が撤去され建物が解体されていた。
新しい家などが目立つようにもなった。
レイちゃんのお気に入りの場所はお寺の車の上。
やってくる檀家さんを眺めている。
人の往来が激しいお寺の子、当然ながら人慣れしている。
おおきくなったねー、と頻繁に声を掛けられる。
皆さんは当然ながら何らかの形で熊本地震を経験している。
なにかレイちゃんを復興のシンボルの様に感じている方も多いと思う。
2年が経ちレイちゃんももう大人。
新しく仲間入りしたクロと遊んであげている。
はじめは大人の余裕でじゃれつくクロをいなしているが、
段々とどちらも本気になり、そのたびに住職さんに怒られている。
レイ、レイ、やめなさーい。
住職さんがそう言った刹那、僕はまるで悟ったかの様に突然ひらめいた。
ああそうか。
レイは0なんだ。
ゼロ(零)からの出発という意味でつけられたのではないか。
まさに0から始まって1.2.3...と着実に数字を刻んできたこの2年間。
あの日、まるで何もかもがリセットされゼロのような状態だった熊本。
そこからどのくらいの数字が積み重なっただろう。
希望はマイナスになる事はない。
その通りに数字の分だけレイちゃんも大きくなった。
僕は住職さんに問うてみた。
本当は適当につけた名前じゃないんでしょ、と。
すると住職はこう返す。
「いやいや、あの6匹の名前はレイ(0)、ハジメ(1)、ジロウ(2)、サン(3)、シロ―(4)、ゴクウ(5)なんだよね、ほんと適当に数字から付けたんだ」
そう言う。
だけど僕は照れ隠しでそう言ったと断言する。だって普通、名前は1から付けるんじゃないかな。
ゼロから付ける事はあまり無い。
住職は笑ったまま再建された本堂に入っていった。
レイちゃんもそれについて行った。
text&photo/Kenta Yokoo