猫びより

令和の猫助け てしま旅館猫庭 「若い力で猫を幸せに!」

2020/03/14

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文・高橋美樹 写真・芳澤ルミ子

猫を取り巻くさまざまな問題が浮き彫りになりながらも、人々が声を上げ、力を合わせ、不幸な猫を救おうと努力し
てきた平成。新しい時代を迎え、猫のための取り組みにも新たな波がやってきそうです。

猫と人の縁を結ぶ温泉宿、猫のために切磋琢磨する高校生、SNSを駆使した保護活動、動物を生かす行政への転換―。

令和元年、「猫助け」の今を見つめながら、猫と人との新しい未来を覗いてみましょう。



▲小学6年生のてしま旅館「猫庭」館長・手て 島しま姫ひめ萌も さんからのメッセージ


▲多頭飼育崩壊から保護されたこはるちゃん(5歳)。「館長大好き!」

 

てしま旅館 猫庭

 

若い力で猫を幸せに!

「ねこにぃ~ワッショイ!」。猫も人も元気に、そして幸せにしたい! そんな想いが込められた掛け声と共に、年間100匹以上の猫を救う、巷でスーパー小学生と話題の女子がいる。山口県のとある旅館の一角にある猫シェルター「猫庭」館長、手て島しま姫ひめ萌もさんだ。


▲7月はデビューシーズンで半数が子猫。「パ・リーグ兄妹」と名づけられた4匹

 

知る人ぞ知る観光地

瀬戸内海にもほど近い、丘陵の田園地帯にある山口市阿知須(あじす)は、西日本最大の名門ゴルフ場や日本屈指のラジウム含有量を誇る阿知須温泉もあり、県内でも知る人ぞ知る観光エリアだ。

しかしここ数年、県内外から猫を目当てに足しげく通う人が増えている。目指す先は、美食の小宿・てしま旅館が展開している保護猫シェルター「猫庭」。そして彼らのお目当てはもう一人、館長の手島姫萌さんだ。

 

休む間もなく庭へ

7月末に12歳になったばかりの小学6年生。猫庭ができた3年前から館長として、猫たちの世話や訪れた人への譲渡案内を行っている。

帰宅するとすぐに、ユニフォームの猫庭Tシャツとワークパンツに着替え、旅館中庭にある猫庭へ。「今日は5時間授業だったから少し早く帰れたけど、いつもはランドセルを下ろしたら走って来ないとご案内に間に合わなくなっちゃうんです」と言いながら、手際よく猫トイレの掃除や床掃きを始めた。

この日は旅館が休みだったが、普段は夕方5時から宿泊客を対象にした、館長による猫庭案内が催されているのだ。
また、各部屋の夕食後にも希望があれば、館長自ら案内する。最終受付は9時半。「子どもは夜10時までしか働けないんで……」

と、自分の事情をよく分かっている姫萌さん。予約が立て込む日は夕食が10 時を過ぎることもしばしば。宿題をしたり、ゆっくりできるのはそれからだ。「4年生まで週5で習っていた柔道と、学校まで毎日片道1時間歩いているので、それで体力がつきました。接客中立ちっぱなしでも、全然疲れません」と、余裕の表情だ。


▲ロビー正面から見る猫庭。机上にはマナーブックや保護猫たちのデータファイルが

 

お父さんは猫嫌い

家は、1969年創業の旅館。父で3代目の英樹さんが跡を継ぎ、2004 年に全館リニューアル。ふぐ料理など山口の幸を堪能できる、全6室のデザイナーズ旅館として人気を博してきた。猫とは無縁。英樹さん自身も生涯猫と関わることはないと思っていたという。

「何せそれまで猫はゴミ捨て場を荒らしたり、道路で轢かれていたり……良い印象がなかったんです。自分が中学生の頃には、2代目だった父がクロという外猫を可愛がっていましたが、当時は全く理解できなかった。その子も宿の前で事故に遭って亡くなりましたしね。どちらかというと、意思の疎通もままならない害獣というイメージでした」


▲給餌風景。「キャットフードは寄付でいただくこともあってとても助かります」と館長


▲10個以上あるトイレを順に片づけていく。体調不良の猫がいないか入念にチェック


▲姉の歌七多さんに爪切りを教わる。猫によってもコツが違うので日々勉強だ


▲YouTubeの撮影風景。主に館長が出演、歌七多さんが撮影、英樹さんが編集を担当する


▲週末は譲渡会でアテンド。こちらのご夫婦は4回通って17頁のハム君の里親さんに決まった(写真・高橋美樹)

 

衝撃的な出会い

それが宿ごと猫に大きく舵を切ったのは、5年前の12月、当時小学1年生だった姫萌さんが頼み込んで迎えた一匹の
猫・メノちゃん(推定5歳♀)との出会いがきっかけだった。

「最初は姫萌の執拗なプレゼンに押されたのもあって、兄妹で面倒を見てお客さんに迷惑をかけないことを条件に渋々許可したんですが、メノが人懐っこくてツンデレなのも可愛くて……。

年末、宿が一番忙しい時期に仮眠につきあって疲れを癒してくれたのも決定的でしたね。僕が思ってた〝猫像〟を完全に覆くつがえされたんです。犬より頭が悪いとも聞いていたのに、人間以上に絶妙な距離感や間合いを掴めるし、自分が無知だっただけで『猫ってこんなにフワフワで魅力的な生き物だったんだ!』と、すごい衝撃でした。

人間、変わるもんですね」と苦笑いした。

 

「猫庭」始動

そこからは英樹さんの猫ガードが一気に崩落。姫萌さんたちと共に、どの猫も「個性を持った大切な存在」として、知人が保護した猫や近所の親子を迎えるうち、気づけば4匹に。

さらに2016年1月、「山口県が猫殺処分数でワースト3位になった」というローカルニュースを家族で偶然目にしたのが「猫庭」への最後のひと押しとなった。

姫萌さんの「猫ちゃんの命を救いたい!」、英樹さんはじめ家族の「自分たちにも何かできることはないか」。

そんな想いを形にすべく、2月末には『5000 匹が殺処分される山口県で猫の命をつなぐ旅館をつくりたい!』を掲げ、インターネット上で資金を募るクラウドファンディングを立ち上げた。

45日間で目標金額の400万円を見事達成し、6月、旅館の中庭にJR貨物のコンテナを2つ並べた猫シェルター「猫庭」が完成した。


▲トラ子ちゃん(左・4歳)とリリちゃん(4歳)。成猫たちも愛情を注がれチャーミングな表情の子が多い

 

猫ファースト

家族のアイディアを基に、デザインをお願いしたのは猫家具『キャットモック』でグッドデザイン賞も受賞した、県内在住の猫好きデザイナー礒部 司さん。壁は猫の大好きな木材を断熱材に利用し、エアコンを完備することでコンテナの寒暖差を解消。

また、ロビーに面した部分はガラス張りにして閉塞感をなくすと同時に日当たりも確保。猫たちもリラックスして、こちらもソファでくつろぎながら互いにストレスなく鑑賞できる。

 

館長は天職

今や猫庭になくてはならない姫萌館長が誕生したのは、聞けば偶然の産物。

日々旅館業で忙しい両親、学業や部活動で忙しい姉・歌か七な多たさんや兄・一いっ閤こうさんに代わり、家族で一番手が空いていたのが、末っ子で当時小
学3年生だった姫萌さん。

頼まれるままに応対するうち、彼女の天賦の才能に気づいたのはお客さんだった。「『説明も上手で猫にも好かれて、まるで館長さんだね』って言われたんです。私もやってみたらすごく楽しくって!」。


▲県内の観光スポット「元乃隅稲成神社」を文字った名所「猫乃隅稲荷神社」。狭いケージ飼いで足腰が弱かったこはるちゃんも御利益あって(?)この通り!

 

頼れる番長

猫たちは、県の愛護センターに収容される一歩手前で持ち込まれるケースが多く、子猫の引き取りや高齢者の多頭飼育崩壊など相談が絶えないという。

現在も自宅にはデビュー前の子猫や闘病猫も合わせると12匹。さらに猫庭へは常時30匹が入れ替わり入所し、日々のケアは並大抵のことではない。実務的な部分は、家族全員で役割分担している。

とりわけ館長が絶大な信頼を寄せているのは「猫庭番長」の姉、現在看護学校生で旅館ではホールも担当する歌七多さん(17歳)だ。

「お姉ちゃんは普段は怖いし(笑) イマドキのJK( 女子高生)だけど、猫のことはすごいんです。掃除も完璧で、爪切りや投薬も上手だから勉強になるし、インスタも面白いからいつも真似してます」と姫萌さん。


▲1階と2階を結ぶキャットポールは子猫たちだけでなく、成猫たちにも大人気の遊び場だ


▲パ・リーグ兄妹のお転婆娘・ソフトちゃん(3ヶ月)


▲保護猫情報が書かれたファイル。絵が得意な歌七多さんのイラストもあり個性が伝わりやすい


▲5月に敷地内には「猫庭うどん」がオープン。1杯30円が猫庭基金に。週末には行列もできる盛況ぶり

 

SNSをフル活用

昔ながらの愛護活動と大きく一線を画すのが、この、若い感性を最大限に活用したボーダーレスなSNS戦略だ。

姫萌館長(時々、母で女将の自より実みさん)が更新する、Instagram(スマホ専用の画像・動画投稿アプリ)の猫庭公式アカウントのほかに、歌七多さんたちも個人アカウントを持ち、それぞれ気軽に猫紹介や最新ニュースを発信している。

加えて、YouTubeの動画配信も人気で、24時間猫庭Liveや、歌七多さんが撮影して姫萌さんが猫紹介する『猫庭チャンネル』には多くのファンがつき、譲渡数や集客の底上げに大きく貢献しているという。もちろん、譲渡後の里親さんとの連絡手段も、スマホで手軽にできるコミュニケーションアプリ・LINEだ。

 

年間100匹救済

運営開始から半年で60匹を保護し、順調に34匹を譲渡、翌年6月には『1年で100匹の命を救う【てしま旅館の猫庭】プロジェクト第2 弾! 』と銘打った2度目のクラウドファンディングも達成。

コンテナを上部に追加し、猫庭は圧巻の2階建てになった。てしま旅館は客室が2階にあるため、宿泊客は自分の部屋から猫庭内を覗ける新たな楽しみ方も増えた。

 

1/4以下に激減

これまで3 年間で保護した猫は310 匹。そこから新たな家族を見つけた猫たちの数は267匹。山口県( 下関市を除く)の猫殺処分数も、ワースト3 位だった2015年度の2208匹から最新の2017年度は490匹にまで激減。

週末再訪した譲渡会でもわずか2時間で子猫3匹に新たな家族が見つかった。姫萌さんたちの地道な挑戦が、大き
な岩を動かす一翼を担っていることは間違いない。

 

素顔は12歳

館長の日々のストレス発散はお風呂。旅館が休みの日には、宿自慢の天然温泉に1~2時間ゆっくり浸かってバスタイムを楽しむ。

そして年に数回、カープ戦に出向いて大好きな田中広輔選手の応援に精を出すのが今一番のご褒美だ。近々出版も控え、テレビ収録に続いて人生2度目の上京を予定しているが、都会は苦手。「息がしづらいから」。スーパー小学生の素顔はいたって純朴だ。


▲自宅の猫たちと。(左から)歌七多さんとゴハンちゃん(3歳)、一閤さん(14歳)とベジータ君(1歳)、姫萌さんとメノちゃん、英樹さんとユキちゃん(7歳)。裏方に徹する女将さんは残念ながらお顔出しNGだが皆が恐れる「猫庭総長」だ

 

庭から世界へ

来年からは中学生。獣医師だった夢は一旦保留にした。「猫も人も幸せにできる仕事はまだ他にもありそうだから、もっと勉強して色んな人に出会う中で決めていきたい。そのためにも、館長は頑張って続けていきます!」、そう意気込みを語る。

一方で英樹さんも負けていられない。「今までは姫萌が小学生だから世間に注目してもらっていた部分も大きいと思いますが、そもそもこれは我々大人たちが令和に持ち越した負の遺産。次世代に引き継がないためにもまずは県の殺処分0を、そしてゆくゆくは『ネコニワールド』として、より多くの猫たちを幸せにする活動を広げていきたいと思っています」。

中庭から始まった家族の挑戦は、ボーダーレスに広がっている。


てしま旅館
山口県山口市阿知須7418-8
TEL 0836-65-2248
https://teshimaryokan.com
◉猫庭オンラインサロン:
https://neko-niwa.com
◉Instagram:neko_niwa33
◉YouTube:猫庭チャンネル