「後継者」
とある小さな神社。
かつて猫の主がいたのだが、ある日姿を見せなくなった。
跡を継ぐように新しい猫が住みつき始めた。まだ1歳くらいの若者様々な猫がやって来ては縄張りを主張し始めるのだが、不思議と喧嘩にもならずに去っていく。
まだ若いから眼中にないのだろうか。なんとか神社の現"主"としてやっていた。
ある日。老獪そうな雄猫が敷地に侵入してきた。若者は見当たらない。しめた、と思っただろう。色々な場所にスプレーし始めた。
賽銭箱や社、台座…いよいよ占領しようとしている。
桜の木の根元にスプレーしようとした侵略者。
するとどうだろう、桜の木の上に若者がいた!ずっと監視していたのだ。
下から見上げると木に登った若者はとても大きく見える。心理的に有利な立場だ。侵略者はおびえる様に後退り、敷地の外へ出ていった。
とりあえず僕は。
お賽銭を入れて二礼二拍一礼。
前の主と同じく、参拝者を見守るような暖かい視線を送ってくる現・主。
突然、姿を消した前の主。責任感の強かった彼だ、もしかするとこの若者を後継者に指名して去っていったのではないか。
神社を守るノウハウを教えて。
でなければ若すぎる彼が神社を守る術を持つはずがない。
「桜の木に登って奇襲するんだ」
「参拝者は大切に見守るんだよ」
ひとつひとつ教えていって。
「神様の言う通りにすれば大丈夫」
神様からもアドバイスをうけているのかも。
しかし大欠伸をしてどこ吹く風。木の上から神社全体を見渡していた。
text&photo/Kenta Yokoo