寄りそう猫「猫のいるしあわせ」

バツイチおっかあと子どもたちが暮らす海辺の家は、今日もにぎやか。ワケアリ猫が9匹、笑顔の真ん中にいる。

千鶴子さん提供

利発そうな瞳を持つキジ白の子猫を、あおいちゃんの小さな手が、大事そうにそっと包む。この子は、あおいちゃん一家の9番目の宝物だ。

子猫は生後2か月くらいのとき、海辺で衰弱しきってカラスにつつかれていた。通りかかって救ってくれたのは、海辺の猫たちのお世話を続けている保護団体「ドリームキャット」の千鶴子さんだった。

シェルターで栄養をつけてもらっているところを、おうちの猫の塗り薬を分けてもらいに来たあおいちゃんにとても気に入られ、もらわれていく。

子猫を迎えたのは、お母さん、あおいちゃんのお兄ちゃんのりょうたろうくん、おばあちゃん、そして、8匹の先住猫たち。

9番目の猫として、子猫は「キュー太」という名をもらった。

新入りを迎えた8匹の先住猫たちは、それぞれにワケアリで、個性的な面々だった。

最初の猫がやってきたのは、りょうたろうくんがお母さんのお腹の中にいる12年前のこと。

町の駐車場で両目の飛び出した黒猫を見かけたお母さんは、放っておくことができず、獣医さんへ。「両目摘出」の診断に、涙が止まらず卒倒しそうになって、獣医さんで介抱される。

両目を失った猫を家に迎えたお母さんは、こう話しかけながら、「ひめ」という名前を付けてやった。

「目はなくなっても、お前は可愛いお姫様だからね」

あおいちゃんは言う。「ひめはね、いつでも笑ってるの」

次に来たのは、まだ幼かったりょうたろうくんが庭で見つけたハチ割れのノラ。「おいで〜」と呼んで家に入れてやった「きのこくん」だ。当時キノコ類に目がなかったりょうたろうくんの命名である。

10年たった今では、どっしりと風格ある猫に。兄妹げんかでりょうたろうくんがお母さんに叱られていると、「お母さん、もうその辺で」と止めに来る。

その次にやってきたのが、寒い雨の日、病院の自動ドアの前で鳴いていた「あめこちゃん」。

その次は、外で必死に子育てしていた、バリバリのノラ母さん一家。「かあさん」「ごっちゃ」「ふとし」「ごま」「はだ」たち5匹を、1匹ずつ手なずけて家に入れてやった。

そして、9番目が、キュー太くん。目の見えないひめは、それまで、他の猫たちに心を閉じていたのだが、無邪気なキュー太に甘えられたり、互いに舐め合ったりするうち、他の猫にも心を開いていった。今では、他の猫たちにも心を許し、寄りそい合う。

お母さんが会社に、りょうたろう・あおい兄妹が学校に行っている間は、おばあちゃんが猫たちの世話を引き受ける。下校後は、おばあちゃんから子どもたちにバトンタッチ。

「どの子も、おんなじに可愛い。毎日楽しい」と、りょうたろうくん。

「友だちが羨ましがって,うちに来たがるの」と、あおいちゃん。

4年前に、離婚という選択をして、実家に帰り、新しい人生を始めたお母さんだが、離婚に至るまでは、とても苦しい日々を送ったという。

「だけど、子どもたちは、猫たちを相手にいつも笑顔でいてくれました。猫たちがいなければ、私はあのつらい時期を乗り越えられなかった。今は、毎日、家族みんなで仲良く楽しく笑ってばかりです」

りょうたろうくんとあおいちゃんは、がんばっている大好きなお母さんを「おっかあ」と呼ぶ。

家族が寄りそう。人と猫が寄りそう。猫と猫が寄りそう。ささやかだけれど、たしかなしあわせが、ここにある。

 

寄りそう猫
佐竹茉莉子・著

定価:1320円(税込)
単行本(ソフトカバー)
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※この物語は、2019年発行当時のものです。

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