ネコは身近な動物で、ヒトの社会の中で暮らしています。そのため野生動物とは異なり周囲の環境も含め、ヒトがいてネコは生きていけると思うのです。ヒトとヒトの間に繋がるいのち。今を生きる友達として向き合いながら、街の中にネコのいる風景が時代は変わってもあり続けてほしいと願うばかりです。
写真・文・イラスト平井佑之介
▲待っていたよと伸びをする
“ギァーー、ギァーーオ”と住宅街にネコの声が響く。
“キジロー”と名付けられたこの声の主は、どこからか流れてきたオスのキジネコで最初から懐こい性格だったという。ヒトを見ては足を止めてくれるまで鳴いている。
ひと休みにちょうど良い公園のベンチにおじさんが腰かけると、“キジロー”が当たり前のように膝の上に座った。
「ここまで甘えん坊なネコは珍しいよね」と話していると、おじさんの厚手のジーパンに爪を立て、両前足をグーパーしはじめた。
▲膝の上が安心する。乗ったらグーパーを欠かさない
甘えた分だけズボンはほつれたが、仕方ないとあきらめてしばらく一緒に過ごす。
おじさんがそろそろ帰ろうと膝から“キジロー”を降ろして歩き出すと、まだまだ遊び足りないと大きな声で追いかけてくるものだから、おじさんはまたベンチに戻る。
少しだけのつもりが気づくと公園の時計は大きく進んでいた。
▲遊んでもらうのが何よりも嬉しそう
▲地面のくぼみを見つけて飛び込んだ。勢いあまってでんぐり返し
「もうこんな時間だから、また明日」と“キジロー”の隙を見て足早に帰っていった。
“キジロー”の生まれは不明だが、過去にヒトと触れ合っていたのを想像できるほど、ヒトへの信頼が厚いネコだ。
特長的な大きな声と懐こさからいつの間にか人気者になっていた。
公園に遊びに来た子どもたちも、帰り際に「撫でてもいい?」と駆け寄ってくる。ネコがヒトをつなぐところを目の当たりにした。
季節は巡り薄手の服に衣替えしても、膝の上でいつものように“キジロー”は甘えている。両前足をグーパーしようものなら、深く爪が食い込む。
おじさんが我慢しながら「スキスキは?」と話しかけると“キジロー”はオデコをすり寄せる。そのままマスクをくわえて引っ張ることもある。膝の上でぐるぐる回転し、丸まってそのまま目を閉じてしまった。
最近はおじさんの帰る背中を見て、声を上げながら追いかけることも少なくなった。
また会いに来てくれることを信じているからだろう。
「“キジロー”と遊んでいると、ついつい帰るのが遅くなってしまうよ」。
ネコがヒトを待ちわびていると思っていたが、頻繁に通うおじさんにとっても“キジロー”は大切な存在になっているようだ。
▲信頼の証のへそ天でご挨拶。気候も相まって大の字でうとうとしてしまう
Hirai Yunosuke
いきもの写真家。1988年生まれ。日経ナショナルジオグラフィック写真賞2015優秀賞。島や商店街で暮らす猫から、イルカやヘラジカなどの野生動物も撮影。『Nikon D800 ネコの撮り方』電子書籍出版。
Instagram:yunosuke_hirai
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