猫だって……「ずっとの我が家がほしい」

家族にしてくれた人との二度の別れを経験した三毛猫たまちゃん。

ずっとの我が家が見つかるのを保護猫カフェの片隅で待ちわびていました。

アタシの名は、たま。一度見たら忘れないお顔なんだって。「お鼻に墨がついてるよ」ってよく言われるわ。

アタシ、今でもお客さんが来ると、お布団の奥に隠れちゃうの。もうどこにも連れて行かれないってわかってはいるんだけど。

最初に暮らしたお父さんは、アタシのこと、すごく大事にしてくれた。夜通しの仕事が多かったけど、アタシ、お利口にお留守番してたの。

だけど、お父さんはアタシの猫缶を買うお金にも困るようになって、泣く泣くアタシを手離すことになってしまったの。

アタシを引き取ってくれたのは、お父さんよりずっと年上のひとり暮らしの女の人だった。そこでも、アタシはとってもかわいがってもらえたわ。

2年たったある日、朝になってもお母さんは起きてくれなかった。

次の朝も、その次の朝も……いくら待っても起きてくれなかった。

訪ねて来た人が、お母さんの枕元を離れないアタシを見つけた。アタシはまた飼い主も家もなくしたの。

アタシは「一時預かりさん」の家を転々としたあと、保護猫ラウンジに預けられたわ。

「二度もつらい思いをした子なので、できれば、たまちゃんだけをずっと愛してくれる家庭に」が、保護してくれた人の希望だった。

アタシ、ずっとひとりっ子だったから、合宿生活が苦手で、いつも一番高い場所に陣取って、ご飯もデリバリー個食を続けていたわ。

ある日、やさしそうなお姉さんがラウンジに来て、高いとこにいたアタシに手を差しのべて、そっと撫でてくれた。

こんな風に、昔はいつも撫でてもらってた。たまらなく懐かしくて、アタシ、その手をペロペロ舐めた後、スリスリした。

次に、そのお姉さんといっしょにきたパパは「マサコはなんでこんな変わった模様の子を気に入ったんだ?」って言ってたわ。

アタシはその家にもらわれた。初めて猫を飼うおうちで、アタシがおとなしそうで甘えんぼさんなのが気に入ったんだって。

パパは消防士をしてて、ママも、マサコお姉ちゃんも、2人のお兄ちゃんたちも、みんなお仕事を持ってるけど、お休みをずらしてとってくれるの。アタシをひとりぼっちにさせないように。

アタシ、誰かのそばにいないと不安なの。たまにみんなが出払ってしまう時があると、毛布やシーツの奥に潜りこんで、トイレにも行かずにじっと待ってるの。

検診のために獣医さんに連れて行かれる日はパニックになって、「どこへ連れてくの〜〜」って大声で泣き続けちゃう。「飼い主との分離不安」ってことらしいの。

だけどね、この頃はだいぶ落ち着いて、オテンバも始めたわ。だって、このおうちの人たち全員、アタシにメロメロなの。

パパなんて、家にいる時は、10時とお昼と3時に、職場にいる家族あてに「今のたまちゃん」ってラインを送るの。「ご飯食べたよ〜」とか「いいウンチしたよ〜」とか。

みんなもそれを心待ちにしてて「よかったね〜」ってすぐ返事がくるわ。

アタシが5分動かないだけで、みんな心配するの。

みんな、アタシが来てから、まっすぐ家に帰ってくるの。それで、アタシを囲んで、笑い合ってる。

お兄ちゃんたちが口げんかを始めた時も、ママが「たまちゃんが見てるよ」って言うと、ピタリと収まるの。

みんながいつも言うの。「ここがたまちゃんのずっとのおうちだよ」って。

「おばあちゃんになっても甘えんぼのままでいいから、うんと長生きするんだよ」って。

 

猫だって……。
佐竹茉莉子・著

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※このエピソードは、本が発行された2018年当時のものです

写真と文:佐竹茉莉子

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