ふわふわの長毛を持つキジトラ兄妹、バジル、ウメ、シソ、ヨモギ。そっくりさんで麻里子ママもすぐには見分けがつきません。
さっちゃんの後も、ダムには次々と捨て猫や迷い猫が持ちこまれました。
庭に迷いこんだおうちのおばあちゃんが猫嫌いだったため、3か月の時にやってきたサバ白のイチロー。
花屋さんの店先のバケツの中にポンと入れられたままだった子猫は、ミカン。右手を骨折していて、しばらく添木を当てていましたが、ハッピーとサチがそれはよく面倒を見ました。
ハッピーが山からくわえてきた子猫のウブと、神社の軒下にひとりぼっちでいたトメ子。
ここに来てみんなと幸せに暮らしていましたが、若くして天国へ。
持ちこまれた猫の中には、それまでの苛酷なノラ生活から、長生きできない子もいるのです。
「それでも、ダムの子として最後の日々を送ったことは、幸せだったに違いない」と、麻里子ママは思うことにしています。
5年前のある日。山猫のような風貌のノラ猫がふらりとやってきました。彼女はガツガツとごはんを平らげ、翌朝、5匹の子を産み落としました。
母さんによく似た長毛キジトラたちに、麻里子ママは、名前を付けてやりました。男の子にはバジル。女の子には、ウメ、シソ、ミント、ヨモギ。その朝、台所から見えた植物です。
母さん猫は、母屋の一室でせっせと子育てに励みました。
子供たちが少し大きくなると、生来の山猫の血が騒ぐのか、山からごはんだけ食べにくる山猫生活に戻っていきました。
子どもたちにも山猫教育をしたかったらしい母さん猫は、わが子を連れ出すこともしょっちゅう。中でもミントは山猫気質で、外泊が大好きで、とうとう母さんと同じ山の生活を選びました。
猫小屋に残ったバジル、ウメ、シソ、ヨモギの4匹は、今でも野外が大好きです。
夕方、「よい子はおうちに帰りましょう」の時間になって、麻里子ママが最後まで探し回るのが、長毛兄妹。
男の子のバジルは、里山が見渡せる母屋の屋根の上が一番のお気に入り。長毛を陽光に輝かせ、悠然と屋根を歩き回ります。
バジルくんは、カフェ暮らしのイチローくんと里山のボス争いをしています。
イチローくんにケンカで負けた後、外傷は何もないのに、しばらく引きこもりになってしまいました。
お医者さんの見立ては「ケンカに負けたショック」。見かけよりずっとナイーブなバジルくんなのでした。
外泊好きのシソちゃんは、2~3日家を空けては、何事もなかった顔をして「おなか減った~」と戻ってきます。
「シソの1日は、私たちの3日なの」
麻里子ママを心配させて、シソちゃんはいったいどこで何をしているのでしょね。
写真と文:佐竹茉莉子
※犬猫たちの顔ぶれは、本書発行の2017年当時のものです。カフェは現在休業中。