ネコのとなりに [第11回] おやこ

ネコは身近な動物で、ヒトの社会の中で暮らしています。そのため野生動物とは異なり周囲の環境も含め、ヒトがいてネコは生きていけると思うのです。ヒトとヒトの間に繋がるいのち。今を生きる友達として向き合いながら、街の中にネコのいる風景が時代は変わってもあり続けてほしいと願うばかりです。

写真・文・イラスト平井佑之介

数年前から顔見知りの、いくつになっても親離れしないネコがいる。ヒトを見ると警戒して距離を置くお母さんネコの〝もも〟と、それを真似る娘ネコの〝くるみ〟。〝くるみ〟は小さな頃からお母さんにべったりで、〝もも〟が少しでもそばを離れれば、気になって目で追いかける。姿が見えなくなると、〝くるみ〟はダミ声で「ニャアーオ」と鳴いて〝もも〟を呼ぶ。〝もも〟が姿を現すと、つま先歩きで駆けていき、向き合うようにくっついて、〝もも〟の顔を舐めるのだ。


▲隠れがちな“もも”(手前)と、男の子にも負けない、大きくてひょうきんな”くるみ”


▲ふとした瞬間が似ている


▲挨拶がわりに顔を舐める

2匹の暮らす住宅街に家族が引っ越してきた。「昔家にいたネコが〝もも〟にそっくりなんです!」と、家族はふたりをいつも気にかけている。一定の距離を保ちつつ家を訪ねてくるふたりに、お母さんとお兄ちゃんたちは「馴れてほしいな~」「ももちゃん、くるみちゃんかわいいね」と優しく話しかけ、お父さんは飲み水を準備してあげる。みんなの気持ちを知るからだろうか? 2匹は馴れはしないものの、玄関先のタイルにお腹をつけて、ぐっすりと眠る。


▲夕日を浴びながら寝ていた

仲が良い2匹も時に大喧嘩をする。怒った〝もも〟の強烈な平手打ちが〝くるみ〟に炸裂!〝もも〟の滅多なことでは聞かない鳴き声が〝くるみ〟よりもダミ声だと知る。別の日に訪ねてみると、何事もなかったように寄り添い、また〝くるみ〟が〝もも〟に顔を寄せていた。


▲1本道を通りたければ、上を跳ぶしかない


▲安心しているからか“くるみ”の口元が緩む


▲となりに座っただけで、容赦ない一撃が決まった

はじめて出逢った時ほど、〝もも〟と〝くるみ〟はくっつくことは無くなった。いっしょに過ごしてきたからこそ程よい距離が分かったんだね。気分が良いのか、2匹はコロコロ転がって、毛づくろいをする。時折舌が出ているのも、遠くををじっと見つめる表情も、一目で〝おやこ〟だとわかるほど仕草のひとつひとつが似ている。ずーっと続いてほしい今がある。

 
Hirai Yunosuke
いきもの写真家。1988年生まれ。日経ナショナルジオグラフィック写真賞2015優秀賞。島や商店街で暮らす猫から、イルカやヘラジカなどの野生動物も撮影。『Nikon D800 ネコの撮り方』電子書籍出版。

Instagram:yunosuke_hirai
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