ミュージシャンを志したものの様々な困難に遭い路上生活者となった青年ジェームズと一匹の野良猫ボブ、ふたりの奇跡の友情を描いた書籍『ボブという名のストリート・キャット』(辰巳出版)をはじめとしたシリーズは、世界中で愛され、1000万部を超えるベストセラーとなりました。2016年にはシリーズのうち1、2作目『ボブという名のストリート・キャット』『ボブがくれた世界』を原作とした映画「ボブという名の猫 幸せのハイタッチ」を公開。ボブ自身がボブの役を演じたことでも話題となりました。そして2022年2月には第2作「ボブという名の猫2 幸せのギフト」がついに公開、絶賛上映中です。
2020年6月に虹の橋を渡ったボブ。今作にも出演しているとあり、スクリーンでいきいきと動くボブに会えるということで大きく注目されています。
今回は原作著者のジェームズ・ボーエンさんにインタビュー。映画の撮影当時のお話やボブのこと、そして今の生活についてうかがいました。
——この度『ボブという名の猫2 幸せのギフト』の日本公開、誠におめでとうございます。ボブにスクリーンで会うことができて、とても嬉しく思いました。原作の刊行が2014年(邦訳版『ボブが遺してくれた最高のギフト』(辰巳出版)は2020年刊行)、時を経ての映画化となりましたが、2作目の映画化のお話が来た時のお気持ちはいかがでしたか?
「この話を受けたときは色んなことが起きすぎていて、流れについていくのに必死な状況だったのですが、映画化のお話をいただいたときは、ボブに代わってすごく誇らしい気持ちになりました。「ボブという名の猫 幸せのハイタッチ」はインディーズなんですよね。インディーズ映画で続編が作られるということはとてもまれなので、そういった意味でも二作目を作っていただけるというお話は本当にすごいと思いましたし、二作目を作る体験というのも一作目とはまた違うものでした。本当に誇らしく思っている作品です。」
完璧な“ボブ役”を演じたボブ
——今作もボブが出演しているということで、多くのボブファンが注目していたと思います。今回のボブの出演も、スムーズに決定したのでしょうか。
「ええ、とてもスムーズでした。はじめの映画化の話をしているときからボブの主演は決まっていました。一作目と同じように、ほかの猫もボブ役として登場しているということは前回と同じなのですが、一作目の活躍ぶりがあったので今回もボブが大活躍するだろうということで撮れ高をちゃんと用意して……という形で進めていきました。出演にあたり、少し腎臓に問題があったため獣医さんに影響はないか確認しました。でも、ボブは家にいるよりも僕と一緒に外に出ることが好きで、また自分のことを表現することが好きだし、演じるのが大好きだったので、本当に撮影を楽しんでいましたね。」
——前作ではボブ役として7匹の猫が登場していましたが、今回も同じメンバーで撮影に臨んだのですか?
「今回は5匹くらいではなかったかなと思います。そのうち1匹は前作から引き続き出演してくれています。前作ではカナダの猫たちが出演してくれていたのですが、今作はパンデミックの影響で来られなかったので、英国やヨーロッパの猫たちが務めています。それというのも、たくさんの代役はいらなかったんですね。ボブが自分で演じられるというのが一作目を撮ったときにわかっていたので。たとえば町でバスキングして通りに座っているシーンというのは一般的な猫にとっては特殊なことですよね。でも、ボブにとっては普通のこと。ですから、そういったシーンはすべてボブが演じているんです。」
——重要なシーンはボブが演じたとのこと、ボブの撮影シーンはいかがでしたか?
「撮影はほとんど一発で決めていました。監督が、オプションが欲しいので何テイクか撮ることはありましたね。人間は残念ながらボブほどパーフェクトではないので、失敗してしまったりするのですが、ボブはいつも完璧でした。何かミスがあって数テイクとる時というのは、共演の方が失敗してしまった時でした(笑)。そういった話を聞くとびっくりされるのですが、それがボブだったんですよね。来日した時も、ケージから出すとまず自分がどこにいるか把握するために部屋のチェックを始める……彼はそんな性格でした。」
——ジェームズさんはボブと一緒に実際に撮影に参加されていましたが、今作で印象的なシーンや思い入れの強いシーンはありますか?
「ボリス・ジョンソン氏(エピソード当時は市長)にビッグイシューを買ってもらったのに外貨を渡されて使用できなかった……というエピソード。映画では政治家というキャラクターにしていましたが、このシーンを再現できたことはすごく面白かったです。そして、再現という意味では、パーティーでジャクリーヌ・ウィルソンさんに声をかけられたシーンは、実際にあったエピソードなのですが、ご本人にカメオ出演をしていただけたことがとても嬉しかったですね。何年も前の出会いを、ご本人に出演いただいて再現できたというのはとても思い出深いです。」
——映画を視聴したあとは、優しくてあたたかい気持ちに包まれました。また同時に現実世界では映画のような交流が少なくなっていることを実感しました。パンデミック下で思うように人と会ったり触れ合うことができずに孤独感を感じる人も増えていると思います。ジェームズさんもそういった孤独感は感じますか? またそういった状況の中でボブから得たこと、学んだことを活かしたりされていますか?
「すごく興味深い質問ですね。4冊目の『ボブが教えてくれたこと』(辰巳出版)のなかで彼から学んだことを綴ったのですが、友情についてもたくさんのことをボブに教わりました。そんな中で思ったのは、“孤独、孤立しているときでも、真の友人というのはどんな時でも自分のそばにいてくれる”ということです。」
音楽、銅像……ボブが遺してくれたギフト
——現在、ジェームズさんが特に力を入れている活動を教えてください。
「ぼくはミュージシャンであるので音楽を作り続けていて、配信もしています。雑誌の連載コラム執筆なども。今は企画として世界中の街に行ってそこのホームレスについて掘り下げるドキュメンタリーを作りたくていろんな方に話をしているところです。そのほかでは2021年7月にボブの像が建てられたことは、とても嬉しいことでした。世界中のファンがボブに会いに巡礼に来てくれて、このことに関しても色々と携わっています。」
——ボブ像について、日本のファンからもとても好評でした。
「本当に似ていますよね。このコロナ禍でなかなか実際に訪れることは難しいですが、日本の方からも“実際に見に行きたいです”という声をいただいています。彫刻を製作中に見に行ったのですが、窓越しにボブの像がぼくのほうを見ていて目が合って……その時は思わず涙が溢れました。公園にある像というのはサイズも実寸で、このように銅像になったことによって間違いなくロンドン、公園、出版界、そして映画の歴史に彼はなったのだということが嬉しいですね。」
——現在はジンプシー、ポムポム、ギズモ、バンディットの猫4匹とチューバッカという犬1匹と暮らしているジェームズさん。今の生活について教えてください。一緒に暮らすご家族との日々はいかがですか?
「毎日がとてもクレイジーです(笑)。バンディット、ギズモが一番若手なのですが、チューバッカとバンディットがとても仲が良くて、いつも一緒にいます。家の中に階段があるのですが、3段くらい猫に占領されているので、階段で上にあがろうとするとなかなか上がれない。一気に4段飛ばししないといけません。食事の時間は大騒ぎです。とても賑やかで、彼らのおかげでぼくの生活は豊かなものになっています。」
——日本では“猫が亡くなっても毛皮を着替えて会いに戻ってきてくれる”という話があります。ジェームズさんは姿をかえたボブにまた会えると思いますか?
「ええ、その話は知っています。世界中の猫の伝承の知識も深まっている状態です。猫の魂というのがユニークなもので、別の猫になるというのはあるんじゃないかなと思っています。とても素敵なお話だと思います。」
——最後に、ボブとジェームズさんのファンに一言お願いいたします。
「「こんにちは。」ボブのファンでいてくれて僕らの物語をこうやって追いかけてくれている日本のファンのみなさんにとても感謝しています。パンデミック下でお互いにそして自分自身に乗り切る強さというのをこの物語から見つけてくれたらとても嬉しいです。愛をこめて。」
映画『ボブという名の猫2 幸せのギフト』
※上映館については公式H’Pをご確認ください。
http://bobthecat2.jp/
原作書籍はこちら
『ボブが遺してくれた最高のギフト』
ジェームズ・ボーエン 著 稲垣みどり 訳
定価:1,760円(税込) 判型:四六判 168頁
https://www.amazon.co.jp/dp/4777827151
『ボブが教えてくれたこと』
ジェームズ・ボーエン 著 服部京子 訳
定価:1,760円(税込) 判型:四六判 192頁
https://www.amazon.co.jp/dp/4777823571