「教科書」
大きな公園のそばにある駄菓子屋さん。
放課後や休みの日には小中学生であふれかえる。そこに店主のおじいさん、おばあさん夫婦が警察から貰ってきたという猫がいる。
とても大切にされていて基本的に常にリードを付けている。ただ、何回か…いや何十回か脱走した過去があるらしい。近所に"プチ家出"するだけですぐに発見されるが…。
気持ちの良い陽気の日には隣の広場の木に長いリードをくくりつけて日向ぼっこさせている。
この広場は小中学生たちが駄菓子屋で買ったものを食べる場所だ。全般的に子供が嫌いな猫。その時間帯は駄菓子屋さんの奥に"避難"している。
午前中には近くの建設現場で働く人々が駄菓子屋の自販機で飲み物を買い、広場で休む。
そんな時にはお兄さん方に遊んでもらっている。穏やかな性格で決して爪を出したりしない。
しかし午前中だ。公園で遊んでいた小さな子供連れの親子なども広場で休憩する。
小さな子供にとって初めて接する猫。勝手がわからないから首の辺を持ち上げられて"ぐ、ぐるじー…"とバタバタする。
それが解っているからがんばって子供の魔の手から逃れようとするが…木の周りをグルグルまわるしかなく、すぐ捕まる。
そして親御さんに"猫はこう抱っこするの"と教えてもらい子供は初めて"だっこ"を覚える。結果的に"生きた猫の教科書"になっている。
そんな自覚があるのかないのか、今日もジタバタ逃げ回っている、すぐ捕まる事をわかっていながら。
親子が去った後
「おまえたいへんだなー、いろいろ」とよっちゃんイカを食べながら語りかけると、何かニャーニャーいう。
翻訳翻訳…。たぶんこうだ、
「引き取ってもらった恩返しで『看板猫』やってるんだよ」
しかし鼻をクンクンさせて膝に手をかけてくる。ああ、ただよっちゃんイカが欲しいだけか…。
おばあさん曰く、広場に出す時、とても嬉しそうに飛び出ていくらしい。子供におもちゃみたいにされるのにね。
よっちゃんイカよこせ!と視線で訴えかけるが、僕は一気に口の中に放り込んだ。
懐かしい味だ。
text&photo/Kenta Yokoo