この世界の片隅で、ネコ。EP:94『駅裏』

宮城県仙台市に住んでいた2006~7年頃。繁華街とは駅を挟んで反対側、地元の人からは『駅裏』と呼ばれる地区に住んでいた。夜の街だった駅裏も再開発の真っ只中。空地が広がり始め、マンションが林立。

そんな地域にポツンと長屋や神社などが取り残されていた。


写真:sFH000014

お米屋さんには、お米の粒の様な白い猫が店番をしていた。引き戸が少し開いているが外には出ない。狭い工事中の道路は車の往来が激しい。いつも少し寂しそうに引き戸の隙間から外を眺めていた。

神社には生活の場を追われた猫たちが雨をしのぐ為に集まっていた。水の枯れた手水鉢の中に猫が寝ている事がありとても可笑しかったのを憶えている。

鉄道が地下化されて不自然に残った地上部分。土がむき出しの細い土地では近所の種屋さんの黒猫とちょび髭猫が追っかけっこしていた。

長屋のキジ猫がいる部屋。小さな猫用出入り口が作られていて、どこかで産まれた仔猫と母猫が堂々と入っていく。飼い主さんもキジ猫も気にする風もなくみな平等にかわいがっていた。

そして仙台を去る日。閉店しブラインドが降りている理容室。そのブラインドの隙間がさっと開き、灰色の猫が顔を出した。

『さよなら、またな。』

仙台を立つ僕にそう言った気がした、全ての駅裏の猫達を代表して。

10年を経て…今、地図を広げて街並みを見るとあの場所もあの店も、もうない。
フィルムと記憶に刻まれた街、そして猫たち。

僕はずっと忘れない。

写真・文 横尾健太
Twitter 猫島警部 @nekojimakeibu

熊本市在住。1999年より細々と猫写真を撮り始めて今では太々と猫に浸かる。2016年熊本地震で被災、一時的に東京へ避難。その先で様々な人と猫に癒されお世話になる。「ネコまる大賞」「猫の手帖キャネット大賞」「よみうり写真大賞ファミリー部門季節賞」受賞。使用機材:通常はニコンのD800、旅先はペンタックスのKP、夏はニコンのnikon1 J5。でも機材にこだわりはありません。

プロとはそれで生活できる人だと思うので、アマです。なにもかも脇が甘い性格。写真におけるスタンスは皆無です。猫さまを見ると興奮して「あ、あ、あ」となり何も考えずにシャッター切ってます。「猫を使って金儲け」よりも「金を使って猫儲け」したいな。いろんな猫に出会いたいです。

-猫びより
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