東に磐梯山がそびえ、遠く北西に飯豊連峰を望む会津盆地東部。静かな田園に囲まれた竹屋集落に隣接する森に「竹屋観音寺」として信仰を集めてきた寺がある。1573年、集落の北に越後の僧・快元が開いた明蓮寺に始まるこの寺は、1651年に移転して大雲山観音寺と名を変えて現在に至る。観音堂には、快元が越後からもたらした鎌倉時代の仏師・運慶作と伝わる如意輪観音坐像が安置されている。そのたおやかな姿態から、安産祈願と子供の健やかな成長を願う「子安観音」として古くから信仰を集めてきた。
4月中旬、寺に立ち寄ると楼門前の桜が満開で、その下で寛ぐ猫たちが印象に残った。紅葉が始まる秋口に再び訪ねてみると、覚えていてくれたのか猫たちが山道から出迎えにきてくれた。紅葉に彩られつつある参道と猫に思わず見惚れてしまった。
稲作が盛んなこの地域の農家は、ネズミから作物を守ってもらうため昔から猫を大切にしてきたそう。
「私が物心ついた頃からずっと猫がいました。今はプー(8歳オス)、ふわ子(8歳メス)、とら王(7歳オス)の3匹ですが、もっとたくさんいた時期もあります」と、住職の西田俊一さん。人見知りしないプーは寺のマスコット的存在で、檀家さんや参拝客をお迎えしたり、撫でられたりしてもてなすそう。ふわ子は甘えん坊のお姫様気質で、とら王を子分にしているとか。
外を見やれば、参拝客を出迎える準備をするかのように、プーが本堂の前で入念に毛繕いをしている。好奇心旺盛なふわ子にカメラを向ければピントが合わなくなるほど近づいてくる。とら王は末っ子らしくマイペースに境内で寝転がっている。甘え上手だが2匹の先輩には頭が上がらないそう。
「猫や犬などともに暮らす生き物は家族と同じ。仏の教えにもありますが、生きとし生けるものの命は全て平等で人と同じように尊いのです」
そう語る西田さんが夕方に休憩に出てきた時、プーとふわ子が遊びをせがんでいた。ここに暮らす猫たちは本当に家族なのだと思えた。
家路の途上、新緑や雪景色の中にいる猫たちが目に浮かんだ。また会いに来ようと思った。
曹洞宗 大雲山 観音寺
福島県喜多方市
塩川町中屋沢字台畑丙697
TEL 0241-27-2867
Facebook:@takeyakannonji
Instagram:takeya.kannonji
小森正孝(写真・文)
1976年生まれ、愛知県一宮市出身。大阪芸術大学写真学科卒業。同大学副手として研究室勤務。現在フリーカメラマンとして猫撮影を中心に活動。写真集『ねころん』(株式会社KATZ)等。本連載のカレンダー『招福 神様・仏様・お猫様 〜神社仏閣の猫〜 カレンダー2022』が好評発売中。