宮古島の中央部、小さな集落にある洗練されたインテリアの宿『またたびや』。4つの部屋はそれぞれ赤青黄緑のテーマカラーで内装が統一されていて、寝具はすべて心地良いリネン素材。部屋にTVはなくても、窓から見えるサトウキビ畑の風の音を聞き、屋上からは海に沈む夕日を眺め、ゆっくり流れていく時間を楽しむことができる。
元バーテンダーで料理担当の渡辺美幸さんは、幼少期から猫好き。2年島に住んだ後、野良出身の愛猫ねねちゃん・かかちゃん(ともに6歳メス)を連れて2016年11月に宿をOPENした。昨年初め、かかちゃんが猫白血病ウイルスによる前縦隔型リンパ腫を患ったが、半年間の抗がん剤治療により寛解。美幸さんが少しの変化でも見逃さず受診して、根気よく献身的にケアし早めの対処を心がけたおかげだ。
ねねちゃんとかかちゃんはプライベートルームで過ごしているが、黄昏時は窓辺で寝ていることが多い。リクエストすれば、窓辺に連れてきてくれて窓越しのお見送りもしてもらえる。
ゲストの憩いの場であるダイニングバーでは、ソムリエの資格を持つ渡辺隆之さんによる「にくきゅうパンチ」など猫をイメージしたカクテルがいただける。オーダーすればノンアルもOK。島のオススメ観光地だけでなく、猫愛あふれるお話も聞かせてもらえる。
宿にはもう1匹、茶白のきなこ君(推定3~4歳オス)がいる。20年夏、痩せこけた状態で突然集落に現れたそうだ。地域猫にするため保護して去勢手術をすると、途端に宿に居つくようになった。恩返しなのか、お客さんに愛嬌を振りまいたり、看板の前でポーズをとったりと、人懐っこくて接客上手。子どものお客さんにもずっと撫でさせてあげて、帰りたくないと泣かせるくらい、おおらかで気のいい猫だ。
美幸さんいわく「きなこは順応性のある賢い猫。台風でケージに避難させた時も落ち着いていました。どこでも生きていけるタイプです」。そんなきなこ君に、お客さんの中から里親希望者が現れた。離島からペットを空輸することもできるが、猫を飼える新築の家の準備ができたら迎えに来てくれるという。それまではフードやオヤツを定期的に宿へ送ってくれるとても優しい人。地元にも里親さん候補はいたが、完全室内飼いなどベストな条件を考えて関東在住の里親さんに決定したそうだ。
看板猫として大活躍してくれたきなこ君。島を吹き抜ける風のように去っていってしまうが、オーナーご夫妻の猫愛により、また新たな看板猫が現れるかもしれない。
(文・写真 原田佐登美)
またたびや
沖縄県宮古島市下地川満800-37
TEL 0980-76-4161
Facebook:@matatabiya
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https://matatabi-ya.com
原田佐登美
愛知県在住で保護猫3匹と暮らす。著書に、世界の猫写真と紀行漫画で綴る単行本『猫にまたタビ』(辰巳出版)。日本写真家協会会員。