保護猫が減らない背景には、ペットショップに行けば気軽に購入できてしまう大量生産・大量供給型のペット業界の流通システムをはじめ、安易に飼い始めた飼い主による安易な飼育放棄や遺棄、また殺傷などの虐待や、不適切飼育による過剰繁殖からの「多頭飼育崩壊」などがある。これらの解消に向けて今、法整備が着々と進んでいる。
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「8週齢規制」施行
中でも、今年大きく変わったことといえば、6月に施行された「8週齢規制」だ。これは、生後8週齢に当たる56日を過ぎるまでは子犬や子猫の展示販売を禁止する条文で、これまではペット業界の猛反発を受けて附則が付き、実際には7週齢(生後49日)で販売可能となっていた。
しかし、正式に8週齢となったことで、免疫が不安定な時期に出荷することを避け、少しでも感染症にかかるリスクを下げることができるようになったと同時に、あまりに幼すぎる時期に親元から離すことで社会性が身に付かず、噛み癖や攻撃性が増すなどの問題行動の発生リスクも、わずかながら下げることができるようになったといえる。
さらに、店頭であどけない子犬や子猫の愛らしさに釣られて、安易な「抱っこ商法」で購入してしまう消費者の衝動買いにも歯止めをかけることが期待できる。
新たな偽装問題
しかし、この8週齢規制には思わぬ落とし穴も。血統書の出生日は繁殖業者による申告制のため、少しでも早く、そして高値で売りたい悪質業者は生年月日を偽装する可能性が指摘されているのだ。週齢見た目だけで判断することは獣医師でも難しく、偽装の横行を防ぐためには第三者による出生証明など、より踏み込んだ対策が必要といえる。
また、昨年もお伝えした通り、天然記念物とされる日本犬のブリーダーから消費者への直販は、特例として今後も7週齢で販売可能とされる問題や、「本来であれば母子分離は生後4ヶ月以降が適切」とする一部専門家の意見、そして、そもそも「命」を売り買いする生体販売の意義への議論が引き続き必要であることも付け加えておきたい。
悲願の数値規制
また、これまでも「パピーミル( 子犬工場)」や「キトンミル( 子猫工場)」と呼ばれる、身動きが取れないほど窮屈で糞尿だらけの不衛生なケージに、繁殖用の犬や猫を一生涯押し込めておく悪質繁殖業者が度々問題視されてきたが、具体的な数値規制がなかったがために、どんなに劣悪でも業者の都合の良い言い分がまかり通り、指導に訪れた行政も愛護団体も泣き寝入り状態だった。
これがこの度の改正により、猫のケージは「縦:体長の2倍、横:体長の1.5倍、高さ:体高の3倍」など、犬と猫、各体長・体高、特性に応じた最小サイズが設けられ、自由に動ける運動スペースを確保することも義務付けられた(新規業者は今年6月、既存業者は'22年6月より)。
交配も6歳までとし('22年6月より)、飼育者一人当たりの頭数も、'24年までに繁殖用の犬15頭・猫25頭、販売用の犬20頭・猫30頭を上限にすべく、来年から段階的に制限していく形で徐々に環境改善を目指す(詳細は環境省HP参照)。
顕在化する虐待
一方で、飼い主による虐待も厳罰化されると同時に、顕在化してきている。それにより、過去にはうやむやのまま表沙汰にならなかったであろうケースも含め、動物愛護法違反の事例で全国的にニュースでも頻繁に報じられるようになってきた。
中でも、より深刻化しているのが、飼い主が面倒を見切れなくなった数の犬や猫を抱えて飼育放棄(ネグレクト)に陥ってしまう「多頭飼育崩壊」だ。
改正法ではネグレクトも「虐待」と明記されたことは昨年の特集でもお伝えしたが、動物の健康状態が悪化して衰弱するだけでなく、糞尿やゴミなど汚物の悪臭・害虫被害、鳴き声による騒音、逸走(逃げ出し)による更なる繁殖や感染症被害などで、飼い主自身の心身や、ひいては周辺の住環境に悪影響をきたすことも問題を大きくしている。
深刻化する背景
きっかけは前述のような繁殖業者もあれば、近年では動物愛護家が不憫に思って保護猫を引き取るうちに数が増えて手に負えなくなるケースなど多岐に渡るが、一般的には個人のペットがあれよあれよと繁殖して猫屋敷になるケースが多い。
そのような多頭飼育問題が深刻化する要因として、飼い主の多くが経済的困窮、社会的孤立、肉体的・精神的な疾患を抱えているケースが指摘されており、多頭飼育の解消に向けた交渉が難航することも珍しくない。
そのため、予防と早期対策、再発防止の観点からも、社会福祉分野など、飼い主のケアや生活支援も含めた多方面からのサポートが近年論じられるようになってきた。
官民の連携なくして解決なし
そこで環境省は今年3月、現場で直接対応する自治体職員や福祉職員、愛護ボランティアなど地域住民に向けたガイドラインを公表。具体的には、多頭飼育問題の概要をはじめ、対応する各部門の具体的な役割、状況に応じた対応策や知っておくべき法令、多頭飼育の探知・状況把握のためのチェックシート、飼育動物のリストやカルテ、各自治体の取り組み事例なども細かに記載されており、実際この問題に直面した際に、各々がケースバイケースでのアプローチを講じられる大きなヒントとなりそうだ( 詳しくは環境省HP「人、動物、地域に向き合う多頭飼育対策ガイドライン~社会福祉と動物愛護管理の多機関連携に向けて~」を参照)。
さまざまな角度から、これまで大幅に遅れをとってきたペットをめぐる環境改善に向けた一歩を踏み出しつつある今回の法改正。まだまだ途上にあるが、不幸の連鎖を生み出す悪質業者や無責任な飼い主はいよいよ淘汰される時期に来ている。将来的には「保護(すべき) 猫」が減り、人もペットも相乗効果で幸せになれる社会を目指して、本誌では引き続きこの問題を注視していきたい。
多頭飼育崩壊予備軍チェックシート
ペットを多頭飼いしている人で、こんな状態の人はいませんか? 心当たりがあったら地域の動物愛護管理センターや保健所、福祉課に相談を。
- 不妊手術を行っていないペットがいる
- 半年~1年の間にペットの数が増えている
- ペットの排泄物やフードの食べ残しを放置しがち
- 近隣からペットの飼育状況に苦情などがある
- 肉体的・経済的に多少の支援が必要な状態にある
⇒一つでも当てはまれば要注意!早めに対策を考えましょう
※本文中で紹介した環境省による新ガイドラインを基に編集部にて独自に作成しました
監修・細川敦史(弁護士/動物の法と政策研究会会長)
文・高橋美樹
イラスト・おかやまたかとし