ネコのとなりに [第8回]春の音

ネコは身近な動物で、ヒトの社会の中で暮らしています。そのため野生動物とは異なり周囲の環境も含め、ヒトがいてネコは生きていけると思うのです。ヒトとヒトの間に繋がるいのち。今を生きる友達として向き合いながら、街の中にネコのいる風景が時代は変わってもあり続けてほしいと願うばかりです。

写真・文・イラスト平井佑之介

薄橙の朝日と冷たいそよ風に春の訪れを感じる。桜は一面にピンクの化粧を、水気を含む葉は手を振るように揺れては、サワサワと音を立てる。夜露で光る地面は、日差しですぐに温かくなる。それを知ってか、ネコは日の出よりも遅めにやってくる。今日は日曜日、ちょうどヒトやイヌが朝の散歩に出かける頃合だ。


▲ヒトが花を楽しむように、ネコも春を楽しむのかな

真っ白な〝おもち〟は肩を窄すぼめるようにつま先歩きをしては、草原にちょこんと座りこむ。顎をつけて地面にぺたんと腹ばいになると真っ白なお腹がとろけて、名付けたヒトに感銘を覚える。なるほど、つきたての〝おもち〟だ。


▲マイペースなおもちの姿にこっちも安心する

茶色い毛色の〝キバ〟は犬歯が立派。口角を上げたように歯をチラリと見せると「どや」という表情。


▲どんな瞬間も自慢のキバが見える

静かに〝おもち〟のそばに来ては、体を寄せてじっとしている。〝おもち〟がお母さんで、〝キバ〟が子どもだとの噂もある。ふたりとも腰のあたりを撫でられると、舌をペロペロと連動させるのがそっくりだ。


▲ピタッと寄り添うふたり

普段は互いを確認するように手を伸ばせば届く距離で過ごす。瞼を閉じるふたりにそっと近づくと、ゴロゴロと安心の音がする。日時計のように少しずつ伸びゆくネコの影と、深いため息みたいな喉音が、風に包まれて響く。


▲風のない春の日。ついつい口角が上がってしまう

ふと〝キバ〟が〝おもち〟にちょいと手を伸ばす。〝おもち〟は突然の出来事に立ち上がり、ネコパンチでお返し。〝キバ〟は面を食らって、お互い日暮れを手の届かない距離で過ごした。でも翌日には仲直り。


▲安眠を妨げると、おもちロケット!

ふたり並んで人通りを見ていたかと思うと、道を駆ける足音と踏まれて割れる葉音に驚いて、跳ぶように隠れてしまった。

ソーシャルディスタンスをとるように一歩離れてネコを見守ると、普段の様子が見られるかもしれない。時代が変われども、気持ちは穏やかに。いつものバスが乗客を乗せて、よく見るイヌが匂いを辿って道を外れる。ネコにもいつもの一日がはじまって、じゃれたりケンカしたり、お腹いっぱいにゴハンを食べてよく眠る。彼らの音に耳を傾ける。

 
Hirai Yunosuke
いきもの写真家。1988年生まれ。日経ナショナルジオグラフィック写真賞2015優秀賞。島や商店街で暮らすネコから、イルカやヘラジカなどの野生動物も撮影。ヒトと動物や自然が仲良く暮らせるきっかけになりたい。「今を生きる」いきものの姿を伝えたい。『NikonD800ネコの撮り方』電子書籍出版。LINEスタンプ「ネコのお便り」が好評発売中!

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