この世界の片隅で、ネコ。EP:67「雨の匂い」

その日は雨が降ったりやんだり。空を見上げればどんよりした雲が近づいてきた。

雨の匂いがする。なにか湿った土のようなあの匂い、大地の匂いだ。

ああ、これはまた降ってきそうだ。どこかで雨宿りしなければ。ちょうど古い神社がすぐ近くにある。

神社へ入ろうとすると…あ、"主"がいる。

主は神社を縄張りにする茶トラ猫だ。

顔を洗っている…ほほう、確かに「おいでおいで」している様に見える。

つまり豪徳寺の招き猫だ。井伊直孝もそれは勘違いしてしまうだろうね。

曇り空からポツリポツリと雨粒が落ちてきた。

主のお招きを受けて神社で雨宿りさせて頂く。

ビニール傘をたてかけて腰を下ろす。すると主がくんくん傘の匂いをかいでいた。雨の匂いがするのだろうか。

「主さん、雨の匂いがわかるんだ」

主は嬉しそうに、にゃあと鳴いて満面の笑みを浮かべた。そうかそうか、わかるのか。

雨は大分、小降りになってきた。すると主は雨空の下に出て行ってしまった。

ぬれるよー、と言ってみたがおかまいなし。しかたない、ビニール傘を主の所に置く。

雨の中、一匹と一人。ゆっくりとした時間が流れていく。

主は透明になっている傘のビニール部分を不思議そうに見ている。

面白いので傘の反対側に回り主にちょっかいを出す。透明な部分に手をべたべたくっつけたり…。

と次の瞬間、爪を出して感触を確かめようとする主。

やめてー、と言ったが時すでに遅し。バリバリッとビニールが引き裂かれてしまった。

「……。」

雨はほとんどやんでいた。最後にお参り。お世話になったので奮発したお賽銭をいれて…願い事は。

「明日は晴れますように!」

帰り道、また降ってきた。穴あきの傘。うーん、濡れて帰ろう…。

TEXT&PHOTO KENTA YOKOO

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