その日は雨が降ったりやんだり。空を見上げればどんよりした雲が近づいてきた。
雨の匂いがする。なにか湿った土のようなあの匂い、大地の匂いだ。
ああ、これはまた降ってきそうだ。どこかで雨宿りしなければ。ちょうど古い神社がすぐ近くにある。
神社へ入ろうとすると…あ、"主"がいる。
主は神社を縄張りにする茶トラ猫だ。
顔を洗っている…ほほう、確かに「おいでおいで」している様に見える。
つまり豪徳寺の招き猫だ。井伊直孝もそれは勘違いしてしまうだろうね。
曇り空からポツリポツリと雨粒が落ちてきた。
主のお招きを受けて神社で雨宿りさせて頂く。
ビニール傘をたてかけて腰を下ろす。すると主がくんくん傘の匂いをかいでいた。雨の匂いがするのだろうか。
「主さん、雨の匂いがわかるんだ」
主は嬉しそうに、にゃあと鳴いて満面の笑みを浮かべた。そうかそうか、わかるのか。
雨は大分、小降りになってきた。すると主は雨空の下に出て行ってしまった。
ぬれるよー、と言ってみたがおかまいなし。しかたない、ビニール傘を主の所に置く。
雨の中、一匹と一人。ゆっくりとした時間が流れていく。
主は透明になっている傘のビニール部分を不思議そうに見ている。
面白いので傘の反対側に回り主にちょっかいを出す。透明な部分に手をべたべたくっつけたり…。
と次の瞬間、爪を出して感触を確かめようとする主。
やめてー、と言ったが時すでに遅し。バリバリッとビニールが引き裂かれてしまった。
「……。」
雨はほとんどやんでいた。最後にお参り。お世話になったので奮発したお賽銭をいれて…願い事は。
「明日は晴れますように!」
帰り道、また降ってきた。穴あきの傘。うーん、濡れて帰ろう…。
TEXT&PHOTO KENTA YOKOO