「お向かいさん」
猫が集まるお寺のお向かいさんの家。おばあちゃんが一人で住んでいる。
檀家さんなのか、いつも夕方になると家の前のみならずお寺も掃除している。
お向かいのお家の二階に物干し場があり、どうやって入り込むのかそこで猫が昼寝を決め込んでいる。これにはお向かいさんも苦笑していた。
物干し場までの"行き方"を知っている猫のみが辿り着ける特等席。
いままで3匹しかここにたどり着けていない、ほとんどの猫が知らない場所。
夏はお寺の桜の木が太陽を遮り絶好の納涼スポット。
シャムモドキがよく"あぢー"と言わんばかりに物干し場ギリギリのところで伸びてる。お向かいさんは気にせず洗濯物干し。
秋は散りゆく葉っぱが道路にたまって掃除がたいへん。お向かいさんががんばって掃いているのを尻目にハチワレが暇そうにそれを眺めている。
冬は西日が差す頃、とても暖かくなり日向ぼっこには最適。
丸まったミケが陽ざしを全身に浴びて気持ちよさそうだ。お向かいさんも道端に座り日向ぼっこしている。
そして春。物干し場から眺められるお寺の桜が満開、さぞや絶景だろう。
なぜか3匹が一堂に会することはないが、それぞれが花見を楽しんでいるんだろうな。
お向かいさんも「綺麗だねぇ」と桜を見上げている。
僕が「自宅からお花見できますね」と聞くと「掃除が大変だけどね、ハハハ」と笑っていた。
ちなみにお寺のクロが果敢にも桜の木のぼりに挑戦した事がある。結構な高さがある、大丈夫か。
お向かいさんも「男の子だろ、しっかり!」と叱咤激励。
「猫、お好きなんですね」と聞くと「みんな必死に生きてるからね、あたしも長生きしなきゃね、ハハハ」
と笑っていた。とても素敵な笑顔だ。下町にはまだまだ人情が残っていると感じた。
text&photo/Kenta Yokoo