さっちゃんを見つけるとすぐにかけ寄りスリンとするゴローくん。
甘えたいのか、守りたいのか、とにかくさっちゃんが大好きのよう。
「あ、さっちゃんだ!」
遊びに夢中になっていても、遠くにいても、さっちゃんを見つけるや、ゴローくんは飛んでいきます。さっちゃんのあごの下に、頭をさしこんで、スリ、スリ、スリン。
あれ、さっちゃんがコケちゃた。しまった、という表情のゴローくん。そーっとスリンしたはずなのに。でも、毎回、スリスリはやめられません。
だって、さっちゃんが大好きだから。さっちゃんをひとりぽっちにしときたくないから。
サチ、もうすぐ10歳。ゴロー、まだ1歳の仲よしコンビです。
ノラ母さんを交通事故で亡くしたゴローくんが、子猫のときにここにやってきたとき、サチおじさんのことが、すぐ好きになりました。
あんまり動かずにぼーっとしているけど、やさしいさっちゃんのそばにいるとすごく安心できたのです。
「さっちゃん、おはよう、スリン」「さっちゃん、そばにいていい? スリン」
だけど……いつからか、スリンすると、さっちゃんはバタン!とコケてしまうように。
さっちゃんは小柄なままなのに、ゴローくんがどんどん大きくなっていたのでした。
ゴローくんは、賢そうな瞳とふさふさの黒いしっぽをもった、フレンドリーな美青年に成長しました。
今も、さっちゃんを見つけると飛んでいってスリンするのは同じ。でも、散歩の先導をしたり、そばに寄り添う姿は、凛々しいナイトのよう。
さっちゃんは、よく麻里子ママにヤマザクラの広場に連れて行ってもらいます。
花はなの里が全部見渡せる気持ちのいい場所。起伏のない草むらなので、さっちゃんには歩きやすく安全なのです。ゴローくんもついてきました。
さっちゃんが歩き始めると、すぐさまベンチから下りて、お決まりのスリン。待って、待って、ボクも一緒に行くよ!
歩き回った後、ベンチでふたり頭をくっつけて風の音を聞きます。あ、さっちゃんの頭に、テントウムシ!
さっちゃんを赤子のように抱くとき、麻里子ママはふと思い出します。
10年前、ここに子猫が連れてこられた日のことを。抱き上げると、小さな手足を突っぱってブルブルと震えていた……。
さっちゃんは、他の人に抱かれると、緊張して、体のこわばりがひどくなって、目を見開きます。
でも、麻里子ママに抱っこされると、ほら、こんなに目を細めてリラックス。
さっちゃんが麻里子ママに甘えるそばで、ついでに甘えてしまうゴローくん。
この10年、マヒゆえの病気でもうダメと思う危機も何回か。それでも、サチは復活し、仲間の待つ里山に戻ってきました。
幸せになろうね、サチ。
初めて会った日の約束は、まあまあ果たせているかな。麻里子ママはそう思っています。
写真と文:佐竹茉莉子
※犬猫たちの顔ぶれは、本書発行の2017年当時のものです。カフェは現在休業中。