「ぎんは元捨て猫」
古い商店街にあるスーパーの前に捨てられ、オドオドしている猫がいた。人々の耳目を引き、だんだん野次馬が集まって口々に
「かわいそうだねぇ」
「飼ってあげたいけどねぇ」
と呟いていた。
その雰囲気に圧倒されたのか、猫は泣きそうな顔をして人々の前をウロウロ行ったり来たりしている。
まるで「飼ってくれませんか」「貰ってくれませんか」とでも言ってるようだった。
暫くして、そのうちの一人が彼を持ち上げて「今日からうちの子だ」とでも言うように、愛おしそうに猫を抱き寄せて連れて行った。
立派な首輪をつけてもらい「ぎん」という名前も貰った。
ところが……。
あのスーパーの前でのしおらしさはなんだったのか、という程の暴れん坊。先住の猫に喧嘩を売りまくって不穏な空気が漂った。
飼い主さんは「まあ、捨て猫だから最初はこんなもの。すぐなれる」と仰るが……。
何ヶ月経っても暴れん坊は暴れん坊のままだった。
相変わらず同居猫をいじめている。飼い主さんが触れたり抱っこしたりしても一切手を出さないのだが……。
だが、やはりしおらしい面もあった。
飼い主さんの日課の散歩に必ずついてくるのだ。途中で犬が居ると威嚇してまるで飼い主さんを守っているよう。
拾ってくれた恩義を感じているのか。
ああ、でも違う考えもできる。彼は一度捨てられた恐怖心がある。だから飼い主さんから片時も目を離さず「監視」しているのかもしれない。
ボディガードかストーカーか。一体どっちだ?
どちらにせよ傍から見れば忠犬ならぬ"忠猫"なんだけど。
text&photo/Kenta Yokoo