
思い切って猫部屋にしたリビング。普段からこの状態で生活していて、写っているテーブルは猫ベッドを置くためのもの。
人間が使う食卓は別途、隣室にある
ティッシュからリモコン、電化製品のコードに至るまで、何も出ていないシンプルなお宅。ここまで徹底して片づけているのには理由がある。この家で暮らす2匹の猫、ピックル(4歳♂)とペーター(4歳♂)は、とにかく物を口にしては噛みちぎる猫なのだ。そのままではうっかり誤飲しかねない。「対策は常に人間と猫の知恵比べ」と語る飼い主の寺川さんに、2匹と暮らす上での工夫を伺った。
Instagram:@ppbros.58
写真・加藤タカミツ Text by Sakurada Misato
「面白い」と思ったら一直線
リビングを囲むキャットウォークと、あちこちに置かれた猫ベッドや爪とぎ、壁際の猫トイレ。お邪魔してまず目に留まるものはそれだけで、人間の生活用品が見当たらない。
「最初は人並みに写真なども飾っていたのですが、2匹がかじりそうだったので全部外しました」と話す寺川さんの足元を縫って、人懐こいピックルがお出迎えしてくれた。弟分のペーターはキジトラらしい用心深さで、天井のキャットボックスからご挨拶。
それぞれ魅力あふれる2匹だが、これでなかなか一筋縄ではいかない。コードや紐に目がなく、見つけたら全部噛みちぎり、置いてあるものはすべて落とす。取材陣が持参したカメラのストラップにも興味津々で、面白そうなものは絶対に見逃さないのだが、それはつまり誤飲誤食のリスクと紙一重ということだ。
寺川さんが先住猫のピックルと出会ったのはとある保護猫カフェだった。夫婦ともに仕事で海外暮らしが長く、一時帰国のたびにそのお店を訪れていたが、コロナ禍で事情が変わり、日本に留まることになった。
それならばと保護猫をお迎えする決意を固め、人懐こいピックルのトライアルを申し込んだところ、店長さんに「誤飲誤食傾向がかなり強いので対策をお願いします」と言われた。

ちょっとビビリなペーター。お気に入りの心落ち着く場所から取材陣を観察
寺川さんは「物を片づけたり、コードにスパイラルチューブを巻いたり、ゴミ箱にチャイルドロックを付けたりと思いつく限り対策したのですが、全く役に立たなかったですね」と苦笑い。
チューブの隙間から爪が入ると分かると、なんとかしてほじくり出そうと延々チャレンジ。ついには中のコードを出して噛みちぎってしまったそうで、やがて通販サイトの購入履歴が同じACアダプターで埋まっていった。
「全ての電化製品がコードレス仕様になるよう祈る毎日でしたが、自然と『この子と暮らすために私にできることは何かな』という思考になり、家の中の危ない場所はリフォームしてでも塞ごうと思い至りました」
猫の行動を理解して設計できる複数の専門家に相談し、キッチンの侵入防止柵を作ってもらったり、スイッチやコンセントのカバー製作を依頼するなど工夫を重ねた寺川さん。
制限するばかりではなく、遊べる場所があれば興味も分散するかもしれないと考え、思い切ってキャットウォークの設置も決断した。「せっかく猫仕様のお部屋になるのだから、追いかけっこできる相手がいれば楽しく過ごせるのではと思って」、もう1匹のお迎えも考え始めたという。
「相談も兼ねてまた同じ保護猫カフェに行ったら、『服やおもちゃをかじりまくるので、譲渡先に悩んでいる猫がいる』と言われたんです。その子がペーターでした」
まさに渡りに船。ビビリな性格ゆえに新しい家に馴染むまで少し時間がかかったものの、今やすっかりピックルの「共犯者」である。
「キャットステップのネジ頭を隠すシールを剥がしたのはペーター。片方が何か面白いことを見つけると、もう片方もやり始めるんです。人間としては全然面白くないですが……それでも一緒にドタバタ走り回っているところを見ると、それぞれをお迎えしてよかったと心から思います」
とはいえ、2匹が破壊してしまったものも数知れず。次のページでは、やられたいたずらと対策をご紹介していく。
PPブラザーズ事件簿~事案と対策~

①剝がされた枠
キャットステップから手が届く位置にあったスイッチの枠を爪で剥がしてしまったので、人間の指が一本入る穴だけを開けたカバーで覆った

②剥がされた枠2
コンセントの枠も爪で剥がされた。コードを噛みちぎると感電の危険があるため、丸ごと木箱で覆うことに。前に置かれたバス型の爪とぎは囮で、木箱に意識が向かないようにしている

③気をそらすおもちゃ
ぐるりと取りつけたキャットステップと合わせて、2匹の注意をコンセントなどからそらす役割を果たしている。トンネルは障害物競走で大活躍

④タンクごとなぎ倒された自動給水機
ごはんがあると気づいてしまい、自動給餌器のコードを引き抜いて倒してしまった。こちらもコンセントと同じく、木箱で覆っている。壁に固定した背板にはガイドレールが仕込んであり、ごはんを補充するときは取手を持ち上げながら引き抜いて開ける

物がないおかげで、猫にも安全で人間にとっては掃除のしやすい空間になっ た。ピックルはここから窓の外を眺めるのがお気に入り
「気を付ける」のは人間の仕事
物理的な対策以外で気を付けているのは、リビングおよび人間の食卓がある隣室では絶対に物を出しっぱなしにしないということ。
たとえば食事の時、お皿やコップはすべてトレーに乗せ、合間にちょっと飲み物を取りに立つだけでもトレーごと全てキッチンに持っていき、テーブルには一切何も残さない。目を離したら、
次の瞬間には床にはたき落とされているからだ。
一方で、2匹の大好きな紐遊びは目の届くところで堪能してもらっている。たとえば、パーカーを買ったらまず真っ先に紐を外す。
そして、飲み込まないよう注意を払いながら用済みの紐で一緒に遊び、気が済むまで噛みちぎってもらって回収する。
「羽根付きのおもちゃだけは、ペーターが羽根の部分を食べたがるので選ばないようにしていますが」。どうしてもダメなものは譲らないことも愛情だ。

中に入れないよう完 全に塞いだキッチン。料理中も、透明なアクリル板から猫たちの様子が見える
「自分たちの生活を2匹のために犠牲にしているという感覚はありません。基本的に2匹にはこのリビングだけで過ごしてもらい、2階はある程度物を出してもいい、人間だけの生活スペースにしています」
どちらの生活も楽しみも犠牲にせず、工夫や住み分けによって一つ屋根の下でともに暮らす。試行錯誤と柔軟な考え方が、2匹と2人の幸せを守っている。




