ネコは身近な動物で、ヒトの社会の中で暮らしています。そのため野生動物とは異なり周囲の環境も含め、ヒトがいてネコは生きていけると思うのです。ヒトとヒトの間に繋がるいのち。今を生きる友達として向き合いながら、街の中にネコのいる風景が時代は変わってもあり続けてほしいと願うばかりです。
写真・文・イラスト平井佑之介
そのネコは10年間も指名手配されている。分かっていることはやや青みがかった毛色にオスらしい広い額と膨らんだ頬、他のネコにケンカを売って傷をよく作っているという目撃情報だけ。
「さすらいの〝グレイ〟」と呼ばれて、住宅地、公園、坂道の通学路など数キロメートルの範囲で度々目撃され、同じ場所には留まらない。探そうにも道を横切る姿を見るばかりで、どこが住処かもわからない。
▲からだは大きく、表情は優しく
人相書きに似たネコが路地裏を歩く。噂に聞いた〝グレイ〟のようだ。どうやら知り尽くしたテリトリーを慎重に、散策の真っ最中。音をたてぬように後をつけると、台風で折れ、高く積まれた枝の前で辺りを見渡す。
小枝の隙間を大きな体で上手にかき分けて〝グレイ〟が通る。ネコ道の豊富さに驚くと、その場でフワっと2本足で立ち上がる。まるでクマが起き上がるように、届く限り高い枝にニオイを付けてこの辺り一帯の主であることを示す。その姿はどこか人間臭い。
人間社会の中をずっと逃げ回っていた彼も10歳を過ぎると大の字に寝転がることが多くなり、頻繁にヒトの目に触れるようになった。ある日、さくらネコになったと知らせを聞く。ヒトとの交流が増えると、突然ネコが変わったように、毎日甘えに姿をみせる。ときに民家の廊下に入れてもらったり、工事現場の駐車場にお邪魔したりと、流石は世渡り上手。
▲お腹を出して、信頼の気持ちを伝える
今ではヒトが大好きになり、足元までやってきては体を寄せて顔を見上げる。体格の良いオスネコが現れると甘えた姿は影をひそめる。齢を重ねても現役だ!そんな自由に生きるネコもかつてはヒトを遠ざけていたと思うと、愛情にふれるきっかけがあれば……ヒトとネコの物語は奥深い。
椅子に腰かけたおじさんを見つけると膝によじ登り、体を預ける。前肢をグーパーして、ズボンを離さない。ふたりには多くの言葉はいらないようだ。
あたりまえにネコのとなりにヒトがいる。ネコの一生はヒトより短く、そのわずかな時間を僕らは偶然となり合わせる。さすらい続けた〝グレイ〟はたくさん撫でられるとボスの心を内に秘め、やんちゃな顔でヒトのそばを離れない。
▲体格の良い若いオスにも負けない
▲ひと撫でされては、うっとりとした顔をする“グレイ”
▲重たそうなお腹だけど不意に俊敏だ
Yunosuke Hirai
いきもの写真家。1988年生まれ。日経ナショナルジオグラフィック写真賞2015優秀賞。島や商店街で暮らすネコから、イルカやヘラジカなどの野生動物も撮影。ヒトと動物や自然が仲良く暮らせるきっかけになりたい。「今を生きる」いきものの姿を伝えたい。『NikonD800ネコの撮り方』電子書籍出版
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