この世界の片隅で、ネコ。EP:92「おにぎり」

横浜・山手にある外国人墓地。敷地内が一般公開される日があったので久しぶりに訪れた。
洋館が立ち並ぶこの周辺では絵描きさんが熱心に筆を走らせている。

そうだ、もう十年も前の事だ。絵描きさんの団体がエリスマン邸や山手234番館を熱心に描いていた。

そこへ一匹の真っ白い猫がやってきた。普通の白い猫ではなく、絹の様な質感を持ち一点の曇りもない白色の毛を持った猫。僕は見惚れてしまった。美しすぎてうまく表現が思い浮かばなかったので…「美白猫」と名付けた。

横浜、山手、洋館…。美白猫はきっと山手のお金持ちの豪邸で貴族の様な暮らしをしているんだろう…想像はめぐる。

「お昼にしようか」

先程の絵描きさん達が車座になりお弁当を食べ始めた。美白猫はつまらなそうにそれを眺めていた。これが庶民なんですよ、ええ。

しかしおばさんがガサゴソとおにぎりを取り出した時。美白猫は突然、

「ワォーッ」

と鳴き車座に入り始めたではないか。翻訳すると恐らくワォーッは「くれーっ」の意味だ。そして続けざまに

「ウォーッ(たべたいーっ)」「ニャオーッ(はやくーっ)」

と鳴く。あれれ、貴族の様な美白猫のイメージはどこへ…。

そして、おじさんが美白猫の首を慣れた手つきで掴み車座からポイッと追い出してしまった…。

「ウウーッ(やめろーっ)」

後日、洋館の裏口で美白猫が何かを待っているのを見かけた。裏口が開くと皿がスッと差し出され、美白猫がガツガツと食べ始める。

あ、お金持ちの飼い猫じゃなかったのね…。美白猫がどこかすすけて見えたのは内緒だ。

TEXT&PHOTO/KENTA YOKOO

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