「猫の幸福論」
なんとも運の悪い猫がいた。
エイト君。ボス争いでは機を逸し、嫁取りでは後塵を拝し、更に自転車に尻尾まで轢かれる。
まあ、なんというか"間"が悪い猫なのだ。人間にもこういうタイプがいる。
ハチワレは縁起が良いという人がいる。顔に末広がりの八があるからだそうな。しかし少し考えてしまう。ハチワレ自身の幸福はどうなっているのだろうか。
エイト君は少しも運が良いとは言えない、それどころか明らかに運が悪いほうだ。
ただ、彼の飼い主のおばあさんはこう言う。
「猫はいるだけで福をもたらすんだよ」
と。なにか具体的に、例えば宝くじに当たったとか、そんな良い事はないですかと聞いてみた。
「ないよ。でもおかげさまで毎日暮らせてる。それ以上の幸福がどこにあるんだい」
と逆に問われてしまった。この時は即物的な自分を恥じた。
「歳を取ればわかるさ」
そう仰ってエイト君を抱きかかえて自宅の方へ行ってしまった。そこでちょっと考えてしまった。
ハチワレは自分の良運をすべて捧げる事で飼い主に幸せを導いているのではないか。それこそ「猫の恩返し」。
ハチワレは元野良。おばあさんに飼われるようになって、自転車に尻尾を轢かれた時も病院に連れて行ってもらった。
多分、恩義を感じているはず。
とかく最近はパワースポットと言ってはスマホの待ち受けにしたりする世の中。でもそんな事しなくても大丈夫だと思う。神様はしっかり見ている。現におばあさんは大過なくご長寿だ。
やっぱりハチワレは縁起が良いかもしれない。でもそれも人間の捉え方しだい。三毛だってキジだって黒猫だって白猫だって…。
「猫はいるだけで福をもたらすんだよ」
とても心に刻み込まれる言葉だった。